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7. 中心力による運動

7.1     2 質点系の運動


質点系の運動の特別な場合として、中心力の内力だけが働く 2 質点系の 運動を考えると、2 体系の運動方程式は一定速度の運動を続ける重心系 の運動と 2 質点の相対運動に対する 1 体問題に帰着される。 そこでは、2 質点の位置ベクトルの重心、相対変換が基本的である。

$\displaystyle {\boldsymbol r}={\boldsymbol r}_1-{\boldsymbol r}_2\ \ ,\qquad {\boldsymbol r}_G=\frac{1}{M}(m_1 {\boldsymbol r}_1+m_2 {\boldsymbol r}_2)\ ,$      
$\displaystyle {\boldsymbol p}=\frac{1}{M}(m_2 {\boldsymbol p}_1-m_1 {\boldsymbo...
... {\boldsymbol v}\ \ ,\qquad
{\boldsymbol P}={\boldsymbol p}_1+{\boldsymbol p}_2$     (0)

ここに、$ M=m_1+m_2$ は全質量、 $ \mu=m_1 m_2/(m_1+m_2)$ は換算質量である。 運動方程式 Eq.(6.33) は
$\displaystyle \mu \frac{d^2 {\boldsymbol r}}{dt^2}={\boldsymbol F}\ \ ,\qquad
M \frac{d^2 {\boldsymbol r}_G}{dt^2}=0$     (0)

となり、外力が働かないから $ {\boldsymbol P}=$ 一定、となる。 角運動量保存則は
$\displaystyle {\boldsymbol M}^\prime=[{\boldsymbol r}\times {\boldsymbol p}]=\h...
...\qquad
{\boldsymbol M}_G=[{\boldsymbol r}_G \times {\boldsymbol P}]=\hbox{一定}$     (0)

であり、相対運動は一定平面のみで起こる。 もし、内力が保存力なら、重心系でのエネルギー $ E$ は、重心運動の エネルギーとともに保存され
$\displaystyle E=\frac{1}{2}\mu {\boldsymbol v}^2+U(r)\ \ ,\qquad T_G=\frac{1}{2}M {\boldsymbol v}^2_G
=\hbox{一定}$     (0)

となる。ここに、 $ {\boldsymbol F}=-(\partial/\partial {\boldsymbol r})U(r)$ 、 かつ $ {\boldsymbol F}\parallel {\boldsymbol r}$ である。


以下、相対運動だけに注目して、これを 2 次元の極座標表示で解く。 まず、内部角運動量は、 $ {\boldsymbol r}=r {\boldsymbol e}_r$ , $ {\boldsymbol v}=\dot{r} {\boldsymbol e}_r+r \dot{\theta}
{\boldsymbol r}_\theta$ として

$\displaystyle {\boldsymbol M}^\prime=\mu [{\boldsymbol r}\times {\boldsymbol p}...
...bol e}_r \times {\boldsymbol e}_\theta]
=\mu r^2 \dot{\theta} {\boldsymbol e}_z$     (0)

ここに、 $ {\boldsymbol e}_z=[{\boldsymbol e}_r \times {\boldsymbol e}_\theta]$$ z$ -軸方向への単位ベクトル である。ここから
$\displaystyle h=\vert{\boldsymbol M}^\prime\vert=\mu r^2 \dot{\theta}=\hbox{一定}$     (0)

中心力を $ {\boldsymbol F}({\boldsymbol r})=f(r) {\boldsymbol e}_r$ とすると、Eq. (7.2) の相対運動の 方程式は
$\displaystyle \mu [\ddot{r}-r(\dot{\theta})^2]=f(r)\ \ ,
\qquad
\mu (2 \dot{r} \dot{\theta}+r \ddot{\theta})=0$     (0)

と表わされる。2 番目の式は、Eq. (7.6) の角運動量保存則と同等であり、また 次の面積速度が一定という表現と同値である。
$\displaystyle S=\frac{1}{2}r^2 \dot{\theta}=\frac{h}{2\mu}=\hbox{一定}$     (0)

Eq. (7.6) から得られる $ \dot{\theta}=h/(\mu r^2)$ を Eq. (7.7) の 動径方向の方程式に代入すると
$\displaystyle \ddot{r}=\frac{h^2}{\mu^2 r^3}+\frac{1}{\mu}f(r)\ \ ,
\qquad
\dot{\theta}=\frac{h}{\mu r^2}$     (0)

ここで、 $ h^2/\mu r^3$ は角度方向の運動による遠心力の 効果を表わす。 適当な境界条件のもとに、これらの微分方程式を解けば解が求まる。 具体的には、まず 1 番目の式から $ r$$ t$ の函数として 求まり ($ r=r(t)$ )、次にそれを 2 番目の式に代入 してまた別の微分方程式を解いて $ \theta=\theta(t)$ が求まる。 ここで、$ t$ を消去すれば $ r$$ \theta$ の函数として決まり、 軌道が求まることになる。ここで、角運動量の大きさ $ h$ は 初期条件から決まる定数である。


もし、軌道だけを求めるのであれば、Eq. (7.9) から時間微分を 消去して

$\displaystyle \frac{d^2 u}{d \theta^2}+u+\frac{\mu}{h^2}\frac{1}{u^2}
f\left(\frac{1}{u}\right)=0$     (0)

という式を導くことが出来る。ここに、$ u=1/r$ である。 万有引力 $ f(r)=-G m_1 m_2/r^2$ の時、これを解くと運動の 軌跡は楕円軌道 (一般には 2 次曲線) となることが分かる。 (植松、「力学」pp. 104 - 105 参照)


7.2 エネルギー保存則の利用 (中心力の場合の形式解)


力が保存力の時、中心力 $ {\boldsymbol F}({\boldsymbol r})=f(r) {\boldsymbol e}_r$ のポテンシャルは

$\displaystyle U(r)=\int^\infty_r f(r)\,dr$     (0)

で与えられるから
$\displaystyle T+U$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{1}{2}\mu \left(v^2_r+v^2_\theta \right)+U(r)$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{1}{2}\mu \left[(\dot{r})^2+(r \dot{\theta})^2\right]
+U(r)=E \qquad (\hbox{一定})$ (0)

これを
    $\displaystyle E=\frac{\mu}{2}\left(\frac{dr}{dt}\right)^2
+U^{\rm eff}(r)\ \ ,$  
    $\displaystyle \hbox{with} \qquad U^{\rm eff}(r)=U(r)+\frac{\mu}{2}
(r \dot{\theta})^2
=U(r)+\frac{h^2}{2\mu r^2}$ (0)

と書いて、 $ U^{\rm eff}(r)$ を動径部分の「有効ポテンシャル」という。 もとの $ U(r)$ 以外に、遠心力ポテンシャル $ h^2/2\mu r^2$ が つけ加わっている。( $ -(d/dr)(h^2/2\mu r^2)=h^2/(\mu r^3)$ に 注意) 適当なポテンシャル $ U(r)$ に対して、$ r$ の函数として $ U^{\rm eff}(r)$ の グラフを描くと、一般には $ r$ の小さい領域で遠心力の斥力が勝ち、 $ r$ は転回点 $ r_0$ より大きいところでのみ運動が可能であることが 分かる。Eq. (7.13) から
$\displaystyle \frac{dr}{dt}=\pm \sqrt{\frac{2}{\mu}\left[E-U^{\rm eff}(r)\right]}$     (0)

より、$ r_0$ $ E=U^{\rm eff}(r_0)$ を満す (一般には、一番小さな) $ r$ である。$ r_0$ はパラメータ $ E$$ h$ の函数である。 まず、Eq. (7.14) を $ t$ で積分すると
$\displaystyle t-t_0=\pm \int^r_{r_0} \frac{dr}{\sqrt{\frac{2}{\mu}
\left[E-U^{\rm eff}(r)\right]}}$     (0)

より、$ r$$ t$ の函数として求まる。($ r=r(t)$ ) 次に、 $ d\theta/dt=h/(\mu r^2)$ を積分して
$\displaystyle \theta-\theta_0=\int^t_{t_0} \frac{h}{\mu \left[r(t)\right]^2}
\,dt$     (0)

により、$ \theta$$ t$ の函数として求まる。 もし、軌道だけ必要なら、 $ d\theta/dr=(d\theta/dt)/(dr/dt)$ を 積分して
$\displaystyle \theta-\theta_0=\pm \int^r_{r_0} \frac{\frac{h}{\mu r^2}}
{\sqrt{\frac{2}{\mu}\left[E-U(r)-\frac{h^2}{2\mu r^2}\right]}}
\,dr$     (0)

これらは、保存力、かつ中心力で相互作用する 2 質点系の相対運動の解を、 形式的にではあるが、完全に与えている。


7.3 ケプラー問題 (太陽の引力のもとでの惑星の運動)


幾つかの特別な場合には、前節の積分は解析的に求まる。 それは、ポテンシャルが万有引力ポテンシャルである場合と 調和振動子 $ U(r)=(1/2)kr^2$ の場合である。ここでは、 前者について解を具体的に求め、ケプラーの 3 法則を導く。 簡単のため $ \alpha=G m_1 m_2$ とおいて、万有引力ポテンシャルを $ U(r)=-\alpha/r$ と書く。有効ポテンシャルは

$\displaystyle U(r)=-\frac{\alpha}{r}+\frac{h^2}{2\mu r^2}$     (0)

で与えられる。$ r$ で微分して、有効ポテンシャルの極小点を 求めると
$\displaystyle d=\frac{h^2}{\mu \alpha}=\frac{h^2}{G m_1 m_2 \mu}$     (0)

が得られる。この点における有効ポテンシャルの極小値は
$\displaystyle U_{\rm min}=-\frac{\mu \alpha^2}{2h^2}
=-\frac{(Gm_1 m_2)^2 \mu}{2 h^2}$     (0)

である。運動可能領域が存在するためには
$\displaystyle E \geq U_{\rm min}$     (0)

でなければならない。 軌道の方程式を求めるために、最近接距離 (近日点) を $ r_0$ として、 $ r=r_0$ の時 $ \theta=0$ になる様に $ \theta$ の原点を 定めると、Eq. (7.17) は
$\displaystyle \theta=\pm \int^r_{r_0} \frac{h\,dr}
{r^2\sqrt{2\mu E+\frac{2\mu \alpha}{r}-\frac{h^2}{r^2}}}$     (0)

となる。$ (1/r)=u$ として $ u$ の積分へ移ると
$\displaystyle \theta=\mp \int^u_{u_0} \frac{du}
{\sqrt{\frac{2\mu E}{h^2}+\frac{2\mu \alpha}{h^2}u-u^2}}$     (0)

ここに、ルート記号の中は、Eq. (7.19) を用いて $ (1/d)$$ u$ の完全平方の形に書ける。更に
$\displaystyle \varepsilon=\sqrt{1+\frac{2\mu E}{h^2}d^2}
=\sqrt{1+\frac{2h^2 E}...
...alpha^2}}
=\sqrt{1-\frac{E}{U_{\rm min}}}
\qquad (\,\geq 0 \quad \hbox{の実数})$     (0)

と定義すると
$\displaystyle \theta=\mp \int^u_{u_0} \frac{du}
{\sqrt{\frac{\varepsilon^2}{d^2}
-\left(u-\frac{1}{d}\right)^2}}$     (0)

この積分は、積分変数変換 $ u-1/d=(\varepsilon/d) \cos\,\theta$ に より、trivial となる。すなわち、 $ u=(1+\varepsilon \cos\,\theta)/d
=1/r$ より、結局
$\displaystyle r=\frac{d}{1+\varepsilon \cos\,\theta}$     (0)

この軌跡は
    $\displaystyle 0 \leq \varepsilon < 1 \qquad \hbox{の時、楕円}
\qquad (\varepsilon=0 \quad \hbox{の時は円})$  
    $\displaystyle \varepsilon = 1 \qquad \hbox{の時、放物線}$  
    $\displaystyle \varepsilon \geq 1 \qquad \hbox{の時、双曲線}$ (0)

を表わす。


Eq. (7.27) の楕円の場合がケプラーの第 1 法則である。この時、 $ \varepsilon < 1$ の条件から $ U_{\rm min} \leq E <0$ とエネルギー $ E$ が 負の場合である事が分かる。また

    $\displaystyle \theta=0 \quad \hbox{の時} \quad
r_0=\frac{d}{1+\varepsilon} \quad \hbox{近日点}$  
    $\displaystyle \theta=\pi \quad \hbox{の時} \quad
r^\prime_0=\frac{d}{1-\varepsilon} \quad \hbox{遠日点}$ (0)

また、楕円の半長径は $ a=(r_0+r^\prime_0)/2=d/(1-\varepsilon^2)$ . 楕円の中心から焦点までの距離は $ a-r_0=\varepsilon a$ である 事が分かる。すなわち、 $ \varepsilon$ は楕円の離心率である。 楕円の半短径は $ b=\sqrt{a^2-(\varepsilon a)^2}
=d/\sqrt{1-\varepsilon^2}=\sqrt{ad}$ となる。 $ a$$ b^2$ をもとの変数で書けば
$\displaystyle a=-\frac{\alpha}{2E}=-\frac{Gm_1 m_2}{2E}\ \ ,\qquad
b^2=-\frac{h^2}{2\mu E}$     (0)

すなわち、楕円の半長径は角運動量 $ h$ にはよらず、エネルギー $ E$ だけ による。 ケプラーの第 2 法則は「面積速度一定」であり、それは角運動量一定に 他ならない。(中心力の性質)
$\displaystyle S=\frac{h}{2\mu}=\hbox{一定} \qquad
(\hbox{角運動量保存則})$     (0)

ケプラーの第 3 法則を導くには、楕円の周期を $ T$ として、面積速度一定から $ ST=\pi ab$ である事を用いる。ここから
$\displaystyle T=\frac{\pi ab}{S}=\frac{2\pi \mu}{h}\sqrt{d} a^{\frac{3}{2}}
=\frac{2\pi}{G(m_1+m_2)} a^{\frac{3}{2}}$     (0)

が得られる。今、太陽の質量が惑星の質量に比べて十分大きいことに 注目して $ m_1 \gg m_2$ と近似すると
$\displaystyle T^2=\frac{(2\pi)^2}{Gm_1} a^3$     (0)

となって、''公転周期の 2 乗と軌道の半長径の 3 乗の比は 惑星によらず一定'' という「ケプラーの第 3 法則」が得られる。



(参考) 2 次曲線の一般論


2 次曲線は、原点にとった1つの焦点と或る基準線との間の距離の 比が $ \varepsilon :1$ となる様な点全体の集合として特徴づけられる。 今、基準線として、直交座標表示での $ x=d/\varepsilon$ を選ぶと この条件は Eq. (7.26) で表わされる。これを、直交座標表示すれば ( $ x=r \cos\,\theta$ , $ y=r \sin\,\theta$ )、 $ 0 < \varepsilon <1$ の時

$\displaystyle \left(\frac{x+\frac{\varepsilon d}{1-\varepsilon^2}}
{\frac{d}{1-...
...silon^2}}\right)^2
+\left(\frac{y}{\frac{d}{\sqrt{1-\varepsilon^2}}}\right)^2=1$     (0)

となって楕円を表わすことが分かる。ここから、 $ a=d/(1-\varepsilon^2)$ かつ $ b=d/\sqrt{1-\varepsilon^2}$ , $ b=\sqrt{1-\varepsilon^2} a$ が導かれる。 また、Eq. (7.33) から、楕円の中心は $ x=-\varepsilon d/(1-\varepsilon^2)$ の 直線上にあり、楕円はこの軸について左右対称である事が分かる。この事は、 $ x<0$ の領域にも楕円の焦点と基準線が存在することを意味し、これらに ついても $ \varepsilon :1$ の比が成り立つ。ここから、二つの焦点から楕円上の 1 点を結んだ距離の和は $ 2a$ で一定であるという、楕円のよく知られた性質 が簡単に導かれる。一方、 $ \varepsilon=1$ の時は、Eq. (7.26) で 表わされる曲線は放物線となり、直交表示では $ 2dx+y^2=d^2$ で表わされる。 更に、 $ \varepsilon > 1$ の時は、Eq. (7.26) は双曲線
$\displaystyle \left(\frac{x-\frac{\varepsilon d}{\varepsilon^2-1}}
{\frac{d}{\v...
...lon^2-1}}\right)^2
-\left(\frac{y}{\frac{d}{\sqrt{\varepsilon^2-1}}}\right)^2=1$     (0)

となる。今度は、対称軸は $ x=\varepsilon d/(\varepsilon^2-1)$ であり 平面の右側に再び同じ構造が現れる。双曲線では二つの焦点からの距離の 差が $ 2a$ となる。



(H19.7.2 終了)


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Yoshikazu Fujiwara 平成19年7月2日