next up previous
運動の保存量 物理学基礎論 A 基本的例題(I)

第 7 講        (平成 19 年 5 月 22 日)



(基本的例題-続き-)


2. 斜面上の運動


斜面に沿って下方向に $ x$ -軸、斜面に垂直方向に $ y$ -軸をとる。 斜面の傾きを $ \theta$ とする。 摩擦のない場合は、斜面に垂直な方向の力は釣合う。つまり $ N_y=mg \cos \theta$ . 斜面に平行な力は $ F=mg \sin \theta$ . そこで運動方程式は

$\displaystyle m\frac{d^2 x}{dt^2}=mg \sin \theta$     (0)

つまり、$ x$ -軸方向に加速度 $ \alpha=g \sin \theta$ の定加速運動をする: $ x=(1/2)\alpha t^2+v_0t+x_0$ . ここに、$ v_0$ , $ x_0$ はそれぞれ $ t=0$ における速度と位置である。


(摩擦のある場合)

$\displaystyle N_x=mg \sin \theta\ \ ,\qquad N_y= mg \cos \theta$     (0)

と力が釣合っており、初め静止しておれば静止を続ける。斜面の傾き $ \theta$ を徐々に大きくしていった時、 $ \theta=\theta_{\rm max}$ で動き出す とすると、 $ (N_x)_{\rm max}=mg \sin \theta_{\rm max}$ .


一般に接線方向の抗力(摩擦力) $ N_x$ は垂直抗力 $ N_y$ に比例する。 上の場合は $ N_x=({\rm tan}\,\theta) N_y$ である。 $ \theta=\theta_{\rm max}$ の時 の $ \mu={\rm tan}\,\theta_{\rm max}$ を最大摩擦係数という。


$ \theta > \theta_{\rm max}$ とすると、物体は滑り始める。 この時の摩擦力(滑り摩擦力) も垂直抗力 $ N_y$ に比例する。 $ N_x=\mu^\prime N_y$ (一般に $ \mu^\prime < \mu$ ) $ N_x=\mu^\prime N_y
=\mu^\prime mg \cos \theta$ より $ x$ -軸方向の力は $ F_x=mg \sin \theta-N_y=mg(\sin \theta-\mu^\prime \cos \theta) > 0$ . そこで、運動方程式は

$\displaystyle m\frac{d^2 x}{dt^2}=mg (\sin \theta -\mu^\prime \cos \theta)$     (0)

つまり、$ x$ -軸方向に加速度 $ \alpha=g (\sin \theta -\mu^\prime \cos \theta)
~(>0)$ の定加速運動をする。 最大静止摩擦係数や滑り摩擦係数 (動摩擦係数ともいう) は物体の質量 によらず、斜面と物体が触れあう面の性質だけで決まる。


3. 等速円運動


伸び縮みしない糸で結ばれた、平面上の半径 $ r$ の円運動を考える。 2 次元極座標で考えるのが便利である。極座標での加速度の公式、 $ a_r=\ddot{r}-r(\dot{\theta})^2$ , $ a_\theta=2 \dot{r} \dot{\theta}
+r \ddot{\theta}$ を用いて、運動方程式は

$\displaystyle m a_r=-T\ \ ,\qquad m a_\theta=0$     (0)

である。ここに、$ T$ は糸の張力である。 $ r=$ 一定、より $ \dot{r}=0$ , $ \ddot{r}=0$ から 角速度 $ \omega=\dot{\theta}$ を 使うと
$\displaystyle m r \omega^2=T\ \ ,\qquad r \dot{\omega}=0$     (0)

二番目の式から $ \omega=$ 一定、従って $ v=r \omega=$ 一定。 また、 $ T=mr \omega^2=m (v^2/r)$ . つまり、糸の張力 $ T$ は速度 $ v$ の 2 乗に比例する。


(宿題) 静止衛星


地球赤道上を地球の自転と同じ周期でまわる人工衛星。 高度 $ h$ をいくらにすればよいか? (答: 約 3 万 6 千 km)


4. 単振動


壁に取り付けたバネによる物体の振動。働く力は横方向に $ F=-kx$ ($ k>0$ : バネ定数) これは、力が位置だけの函数の 例である。運動方程式は

$\displaystyle m\frac{d^2 x}{dt^2}=-kx$     (0)

$ \omega=\sqrt{k/m}$ とおくと
$\displaystyle \ddot{x}+\omega^2 x=0$     (0)

一般解は $ A$ , $ B$ を時間に依存しない定数として $ x=A \cos \omega t
+B \sin \omega t$ と表される。 $ \omega$ は角速度と同じ単位をもち、実際、下に見る様に等速円運動の 角速度と同じ意味を与えることが出来る。Eq. (5.6) は 線型 2 階微分方程式の簡単な例となっている。特に、 $ A \rightarrow
A \sin \delta$ , $ B \rightarrow A \cos \delta$ とすると、三角函数の 加法定理より、 $ x=A \sin (\omega t+\delta)$ 。 ここに $ A$ を振動の振幅、$ \delta$ を初期位相 ($ t=0$ の 時の位相) という。三角函数の位相 $ \omega t+\delta$$ 2\pi$ だけ 増えれば、変位 $ x$ はもとの値にもどる。その意味で $ \omega T=2\pi$ と なる時間 $ T$ を周期と呼べば
$\displaystyle T=\frac{2\pi}{\omega}=\frac{2\pi A}{v}$     (0)

( $ v=A \omega$ ) で $ \omega$ は等速円運動の角速度としての意味を持つ。 すなわち、単振動は円運動をある軸のまわりに射影したものである。



ここから、数学


(Euler の公式)          $ e^{i \theta}=\cos \theta + i \sin \theta$


実際 $ f(\theta)=\cos \theta +i \sin \theta$ として、$ \theta$ で 微分すると

$\displaystyle \frac{d}{d \theta}f(\theta)=i f(\theta)$     (0)

この微分方程式は、以前の空気の抵抗がある時の放物運動のところで 試みたのと同様にして解ける。$ \theta=0$$ f(0)=1$ で あることに注意すると、 $ f(\theta)=e^{i \theta}$ .


(複素数の極座標表示)


横軸に $ x$ , 縦軸に $ y$ の代りに $ iy$ をとると $ x=r \cos \theta$ , $ y=r \sin \theta$ より

$\displaystyle z=x+iy=r(\cos \theta +i \sin \theta)=r e^{i\theta}$     (0)

と書ける。従って、 $ \left(\begin{array}{c}
x \\
y \\
\end{array}\right)=\left(\begin{array}{c}
r \cos \theta \\
r \sin \theta \\
\end{array}\right)$ の 2 次元ベクトルは、 唯一の複素数 $ z=r e^{i \theta}$ で表される。 これを「複素数の極座標表示」という。


(Eq. (5.7) の一般解)


$ A=1$ , $ B=i$ として $ x=e^{i \omega t}$ . $ A=1$ , $ B=-i$ として (或は、左の複素共役をとって)、 $ x=e^{-i \omega t}$ . 従って、Eq. (5.7) の一般解は $ x=A e^{i\omega t}+B e^{-i\omega t}$ とも表わされる。


(複素数の指数函数)         通常の指数法則が成り立つ。つまり

    $\displaystyle e^z=e^{x+iy}=e^x e^{iy}=e^x (\cos y+i\sin y)$  
    $\displaystyle {\rm log}\,z= {\rm log}\,(re^{i\theta})
={\rm log}\,r+{\rm log}\,e^{i \theta}
={\rm log}\,r+i(\theta + 2\pi n)$ (0)

ここに $ n=0,~\pm1,~\pm2,\cdots$ .


(Taylor 展開)


一般に函数 $ f(x)$

$\displaystyle f(x)=a_0 +a_1 x +a_2 x^2+\cdots = \sum^\infty_{n=0} a_n x^n$     (0)

と巾(ベキ)級数に展開できるとすると
$\displaystyle a_n=\frac{1}{n!}f^{(n)}(0)$     (0)

が成り立つ。ここに、 $ f^{(n)}(x)$$ f(x)$$ n$ 階の微分 を表す。これを、Taylor 展開という。 実は、$ x$ $ z \in {\boldsymbol C}$ (複素数) としても成り立つ。すなわち
$\displaystyle f(z) = \sum^\infty_{n=0} \frac{1}{n!}f^{(n)}(0)~z^n$     (0)

複素函数 $ f(z)$ がこの様に巾級数に展開出来るとき、$ f(z)$ を 解析函数という。指数函数 $ e^z$ や sine, cosine 函数、$ \sin z$ , $ \cos z$ 等の、いわゆる初等函数は全て解析函数である。 特に、$ f(z)=e^z$ の時、 $ f^{(n)}(z)=e^z$ であるから
$\displaystyle e^z = \sum^\infty_{n=0} \frac{1}{n!} z^n
=1+\frac{1}{1!}z+\frac{1}{2!}z^2+\frac{1}{3!}z^3+\cdots$     (0)

は指数函数の巾級数展開であり、指数函数の定義を与えている。 更に、 $ z=e^{i\theta}$ とおいて、実部と虚部ごと ($ \theta$ =実数とする) に まとめると、Euler の公式により
$\displaystyle \cos \theta$ $\displaystyle =$ $\displaystyle 1-\frac{1}{2!}\theta^2
+\frac{1}{4!}\theta^4-\cdots
=\sum^\infty_{n=0}(-1)^n\frac{1}{(2n)!}\theta^{2n}$  
$\displaystyle \sin \theta$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{1}{1!}\theta-\frac{1}{3!}\theta^3
+\cdots
=\sum^\infty_{n=0}(-1)^n\frac{1}{(2n+1)!}\theta^{2n+1}$ (0)

が得られる。これらは、sine, cosine 函数の巾級数展開である。 $ \vert\theta\vert \ll 1$ の時、特に有用である。


5. 単振子


伸び縮みしない長さ $ \ell$ の糸に質量 $ m$ の重りをつけて吊す。 $ T$ を糸の張力として、運動方程式は

$\displaystyle m a_r=mg \cos \theta-T\ \ ,\qquad ma_\theta=-mg \sin \theta$     (0)

である。ここに、$ \theta$ は糸の垂直方向からの振れ角である。 極座標表示で $ r=\ell=$ 一定、より、 $ a_r=\ddot{r}-r(\dot{\theta})^2=-\ell (\dot{\theta})^2$ , $ a_\theta=2\dot{r}\dot{\theta}+r\ddot{\theta}=\ell \ddot{\theta}$ . そこで
$\displaystyle T=mg \cos \theta+m\ell (\dot{\theta})^2\ \,\qquad
\ddot{\theta}+\frac{g}{\ell} \sin \theta =0$     (0)

が得られる。今度は $ \dot{\theta}$ は一定ではない。 しかし、 $ \vert\theta\vert \ll 1$ (振れ角は小さい) として $ \sin \theta$$ \theta=0$ のまわりに展開して、 $ \sin \theta=\theta-(1/3!)\theta^3+\cdots$$ \theta$ の1次 までとると、新しく $ \omega=\sqrt{g/\ell}$ として ( $ \dot{\theta}$ ではない!)、Eq. (5.18) の二番目の式は
$\displaystyle \ddot{\theta}+\omega^2 \theta=0$     (0)

となる。これは、単振動の式 Eq. (5.7) で $ x \rightarrow \theta$ とした ものだから
$\displaystyle \theta(t)=\theta_0 \cos (\omega t+\delta)$     (0)

ここに、$ \theta_0$ , $ \delta$ は任意定数である。 振動の周期は
$\displaystyle T=\frac{2\pi}{\omega}=2\pi \sqrt{\frac{\ell}{g}}$     (0)

(同じ $ T$ だが、張力の $ T$ と区別する。) すなわち、振動が小さい ( $ \theta_0 \ll 1$ radian) 時は周期は 振幅 $ \theta_0$ によらない。これを、「振り子の等時性」という。 また、$ m$ にもよらない。(ガリレオの観察)




next up previous
運動の保存量 物理学基礎論 A 基本的例題(I)

Yoshikazu Fujiwara 平成19年5月23日