はじめに

幾何学は図形と空間の性質を研究する学問である。紀元前300年頃エジプトのアレクサンドリアで活躍したギリシア人科学者ユークリッドによって集大成されたユークリッド幾何学は、文明の発祥の地である古代バビロニアの占星術に用いられた天体観測技術やエジプトのピラミッドの建設のために必要であった測量技術を、直感的ではあるが厳密な数学的論証によって体系化したものであった。それはアラブ世界を通じてヨーロッパに伝えられ、長らくアリストテレスの哲学と並んで中世ヨーロッパ社会を支配した権威ある理論体系である。19世紀に入ってヒルベルトにより発見された非ユークリッド幾何学が現れてからは、幾何学は大きな変貌を遂げることとなったが、それが図形と空間の性質を研究する学問であることには変わりがない。我々の住む世界の空間と物質を研究する学問は、基本的に物理学の分野 (勉強部屋「現代の物質観」の項参照) であるが、「代数」のところで既に学んだ直交座標とか 2 次元、3 次元ユークリッド座標とかは一般にユークリッド空間というユークリッド幾何学の成り立つ空間である。実は、我々の住む空間は我々の近傍 (近く) で近似的にユークリッド空間であるにすぎない。実際、我々のいる場所を座標原点として \(x, y\) 座標をどんどん大きくしていくと、地球は球形だからいずれ地球表面からずれてしまう。我々の現在持っている最前線の理論であるアインシュタインの一般相対性理論では、我々の住む世界は本質的に非ユークリッド幾何学の世界である。しかしここでは、そうした難しい内容に立ち入ることはせずに、我々が小学校、中学校を通じて学んできた直感的な初等幾何学を簡単に振り返ってみることにする。

小学校で学んだ、画用紙上の2点を定規で結んだ時の線分や、一方の端に終点を持ち他方の端は無限大に伸びた半直線、また双方の端が存在しない直線の書き方は既に知っているものとする。二つの直線が交わったり、平行であることの意味も分かっていることとする。また、2種類の直角三角形の三角定規を使った三角形の書き方や分度器を使った角度の測り方、コンパスの使い方も既知とする。2つの辺の長さが等しい三角形を二等辺三角形と言い、3つの辺の長さが等しい三角形を正三角形と言う。2つの三角定規は、いずれも1つの角度は直角であり、二等辺三角形の方では、残りの二角は45度である。もう一つの細長い三角定規では、直角以外の2つの角は60度と30度である。いずれも、多角形の内側の角を内角というが、三角形の内角の和は常に180度になっている。多角形の一つの辺を延長して平角 (180°) から内角を除いた角を外角という。コンパスを使うと、ある一点から等距離にある点をつないで出来る曲線、つまり円を描くことが出来る。


平行線公理、対角、同位角、錯角

画用紙の上に一本の直線 L とその上にない点 P を取る時、P を通り L に平行な直線 L' が1本しかない事は、定規と三角定規を使って簡単に示すことができる。このように誰が見ても明らかで疑いようのない命題を公理と言う。(今の場合は、平行線公理) しかしながら、これを定規と三角定規を使うことなく証明するのはそう簡単ではない。実際この命題は証明できる類のことではなく、逆にそれがユークリッド幾何学を特徴づけていることが19世紀になって明らかになった。

図1-1: 「平行線公理」直線 L とその上にない点 P に対して、P を通り L に平行な直線 L' は1本しかない。


P を通り L に平行でない直線は必ず直線 L と交わる。(図 1-2 参照) この時4つの角が出来るが、お互いに向かいあった角を対角と言う。図 1-2 では①と③、および②と④が互いに対角である。対角は互いに等しい。次に、二つの平行な直線 L と L' にもう一つの直線 L" を斜交いに入れると、多くの同じ角が現れる。(図 1-3参照) 例えば、①と⑤ (③と⑦)は同じ位置関係にあるので同位角と言われる。もちろん、②と⑥ (④と⑧)もまた別の同位角である。同位角は互いに等しい。さらに、③と⑤ (④と⑥) は平行線 L, L' の錯角といわれる。対角と同位角が等しいことより、錯角が等しいことが導かれる。すなわち、③ = ① = ⑤ である。 図から明らかな様に、①=③=⑤=⑦ (②=④=⑥=⑧) である。これを、「対角、同位角、錯角は全て等しい」といい、ユークリッド幾何学の大切な性質である。


図1-2: 対角


図1-3: 同位角と錯角


図 1-2 で、①と②を足したものは平角で、180度である。平角からある角度を引いたものを補角と言う。すなわち、②は①の補角であり、①は②の補角である。多角形の外角は内角の補角である。また、直角である90度より小さい角を鋭角といい、90度から180度までの角を鈍角と言う。90度から鋭角を引いたものは再び鋭角になるが、これをもとの角の余角と言う。

「平行線の錯角は等しい」という性質を使うと、「三角形の内角の和は180度である」という簡単な性質や、三角形の相似に関する比例関係や、また 別の多くの重要な定理を導くことができる。


(練習問題-1) 三角形の内角の和は180度であることを証明せよ。(ヒント: 三角形の底辺と平行な直線を、底辺に向かった頂点を通るように引き、錯角が等しいことを使う。)

図1-4: 三角形の内角の和は180度。


三角形、四角形、・・・、多角形

画用紙 (平面) に三点をとり、それを線分で結んだものが三角形である。これらの3点を三角形の頂点といい、例えば A, B, Cで表す。(図2-1 参照) 三角形ABC を ⊿ABC と書く。各頂点における内角を、\( A, B, C \) (あるいは、ギリシャ文字 \( \alpha, \beta , \gamma \) で表わす。角 \( A\) を ∠BAC とか、∠CAB と書くこともある。この時、(練習問題-1) で示したように \( A+B+C=180° \) である。また、角 \( A, B, C\)に向かい合う辺の長さを \( a, b, c \)とすると

\[ a+b > c > |a-b| \quad, \quad b+c > a > |b-c| \quad, \\ \quad c+a > b > |c-a| \tag{3-1} \]

が成り立つ。

図2-1: 三角形の内角と辺の長さ


一つの角、例えば角 \(C\) が直角の時、直角三角形という。この時、残りの二つの角度の和は \( A+B=90°\) で 90° である。また、あとで示す様に3辺の間にピタゴラスの定理 \( a^2+b^2=c^2\) が成り立つ。(図2-4 参照) 2つの辺が等しい三角形を二等辺三角形、3つの辺が等しい三角形を正三角形と言う。二等辺三角形の底角は等しい。( \(a=b\) なら \(A=B\) ) これは、頂点 C から辺 \( c\) に垂線 (垂直二等分線) を下ろして出来る二つの直角三角形を比較して分かる。(図2-2 参照) また逆に二つの底角が等しい三角形は二等辺三角形である。そこで、直角三角形で二等辺三角形であるものは直角以外の2 つの角度はいずれも45°である。これは、正方形を対角線で切って出来る2つの三角形である。(図2-3 参照) 更に、正三角形では 1つの角が全て等しいという事により、それぞれが180°/3=60°であることがわかる。一つの頂点から垂線を下ろして二つの直角三角形を作ると、それらは直角以外の角 度が30°と60°の直角三角形になる。(図2-2) ここで述べた2つの特殊な直角三角形が三角定規として用意されている。それらの辺の長さの比はピタゴラス の定理により図2-4, 2-5のようになる


図2-2: 正三角形を二等分してできる直角三角形


図2-3: 正方形を二等分してできる直角三角形

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図2-4: 直角三角定規-1 の内角と辺の長さの比


図2-5: 直角三角定規-2 の内角と辺の長さの比


同様に、平面上の4つの点を結んでできる図形を四角形と言う。それらの特殊な場合として正方形や長方形、平行四辺形や台形等がある。これらの詳し い説明は、小学校で学んだと思われるのでここでは省略する。四角形の相対する頂点を結ぶことによって、四角形は2つの三角形の和に分解できる。そ こで四角形の内角の和は 180°×2 = 360°である。これらは多くの頂点を持つ多角形にまで拡張できる。多角形の内角がすべて180°より小さい場合を凸多角形という。(図2-5 参照) それに対して、内角の一つが 180°より大きい場合は凹多角形と言う。(図2-6 参照) 内角の和は、その多角形が凹であるか凸であるかにはよらない。


図2-6: 凸四角形の内角の和


図2-7: 凹四角形の内角の和

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(練習問題-2) 三角形の面積は「底辺×高さ÷ 2」で与えられることを示せ。


図2-8: 鋭角三角形の面積


図2-9: 鈍角三角形の面積

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三角形の合同、相似、三角形の特徴付け

2つの三角形を完全に重ね合わせることができる時、この2つの三角形は合同であると言う。また辺の長さを全て何倍かした時に合同になる時、2つの三角形は相似であると言う。例えば、図3-1 の様に1つの頂点 C から2本の半直線を引き、それらの両方に交わるように3番目の直線 L を引いた時、三角形 ABCができるが、L に平行なまた別の直線 L' を引いて出来る三角形 A'B'C は三角形 ABC に相似である。この時二つの三角形の辺の長さに関して次の関係式が成り立つ。

\[ a:a'=b:b'=c:c' \tag{4-1} \]

ここに、\( c'\) は辺 A'B' の長さである。


図3-1: 1 点から伸びるニ半直線に交わる二つの平行線


図3-2: 図3-1 から作られる二つの相似三角形

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図3-3: 図形の合同の例、Vpass ジグソーパズル


図3-4: 図形の相似、www.ftext.com から転写

相似という概念を直感的に捉えるためには、幻灯機やプロジェクターを思い浮かべればよい。(いずれも今日ではあまり見かけなくなったが・・・) (図3-4 参照) スライドとスクリーンに映し出された映像の長さの比は、光源とスライド、光源とスクリーンまでの距離の比に等しい。一般に円や三角形などの図形は 全て形と大きさという、最小限2つの自由度を持っている。大きさは拡大と縮小という操作によって自由に変えることができる。形が同じで大きさだけ が違う二つの図形は互いに相似であると言われる。大きさの比を相似比という。円は半径だけで形が決まるので、円は全て相似である。同様に正三角形 はすべての辺の長さが同じなので、すべて相似である。相似比は2つの正三角形の辺の比である。ここで重要なのは、二つの正三角型の角度が相似変換 によって変わらず、全て60°であるということである。このことは、任意の相似三角形について成り立っている。すなわち角度は相似変換に対して不 変である。三角形については、内角の和は常に180°なので、二つの角度だけで十分である。すなわち、二つの三角形において対応する2角が等しけ れば2つの三角形は相似である。このことは、より基本的には三角形を一意的に決定するためには最低限3つの変数が必要であるということに関係して いる。一般に三角形は3つの角度と3つの辺を持っているが、そのうち3つの変数だけが独立である。これらの3つとして例えば、1) 二つの角とその間の一辺の長さ、2) ある頂点から出た二本の線分の長さとその間の角度、3) 3辺の長さを取ることができる。(図3-3, 3-4 参照) もちろんこれらの3つの変数は (3-1) の様に、ある制限の範囲である事はあり得る。この内、相似との関係では 1) の条件が一番分かり良い。すなわち、二つの角が三角形の形を決定し、一辺の長さが大きさを決定している。

図3-5: 三つの三角形の特徴付け


(4-1) の証明に戻って、直線 L と L' が平行であることにより、同位角は等しいから図 3-1 で ∠CAB=∠CA'B' かつ ∠CBA=∠CB'A' 。そこで、⊿ABC と ⊿A'B'C は相似である。これを ⊿ABC ∝ ⊿A'B'C と書く。そこで、二つの三角形の辺の比として (4-1) が成り立つ。三角形の相似を使うと直角三角形に対するピタゴラスの定理(三平方の定理)が証明出来る。

図3-7: ピタゴラスの定理の証明


(練習問題-3) 直角三角形ABC (図3-7 参照) についてピタゴラスの定理 \( a^2+b^2=c^2 \) を示せ。(ヒント: 直角の頂点 C から底辺 c に垂線を下ろし、出来た3つの三角形に相似定理 (4-1) を適用する。

(練習問題-4) 図2-2, 2-3 の二つの直角三角形について、辺の比が図の様になることを、ピタゴラスの定理を用いて示せ。


比、比例関係、内分点、外分点、三角形の角の二等分

比例関係 \( a:b=c:d \) について、ここで簡単にまとめておく。比例関係 (線形関係) は本質的に一次関数の傾きだけによって決まる二つの量の間の関係である。従って、比 \( a:b\) に一つの傾きを対応させるとしたら、\(a/b\) か \( b/a\) のどちらかであるが、習慣的に \( a:b=a/b\) と定義することになっている。そこで、 \( a:b=c:d\) は \( a/b=c/d\) の事であり、\( ad=bc\) が成り立つ。すなわち、 \(a:b=c:d\) は \( a:c=b:d\) と同じ事である。また、\( a/b=c/d\) に k を足して \( (a+kb)/b=(c+kd)/d\) や \( (a+kb)/(c+kd)=b/d\) が得られる。  すなわち、\( a/c=b/d\) の時 \( (a+kb)/(c+kd)=b/d\) が成り立つ。例えば、図3-1 で \( a:(a'-a)=b:(b'-b) \) が成り立つ。

\( a, b\) を正の数とする時、図3-9, 3-10 の様に線分 AB を \(a:b\) に二分する点 P を内分点、また点A, B からの距離が \( a:b\) である様な線分 AB の外にある点 Q を外分点という。明らかに、外分点は \( a \neq b\) の時のみ存在する。\( a=b\) の時の内分点 を中点という。


図3-9: 点 A, B の内分点と外分点、\(a > b\) の場合


図3-10: 点 A, B の内分点と外分点、\(a < b\) の場合

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線分 AB の内分点はその上に立つ三角形の頂点の角 \( ∠C\) の二等分に関係している。図3-11 で三角形の二辺の長さ \(a, b\) を使って線分 AB を \(a:b\) に内分し、内分点 P と頂点 C を結ぶと \( ∠ACP=∠BCP\) となる。これを「三角形の角の二等分線と2辺の関係」という。二等辺三角形の場合は、頂点と底辺の中点を結べば良いのでこれは明らかである。一般の場合にこれを証明するに は、図3-1 で点 A と B' を直線で結び三角形 AB'C を考える。平行線の錯角は等しいので \( ∠BAB'=∠AB'A'\) 。これを \( \beta\) とする。一方、\( \alpha=∠CAB=∠AA'B'\) は同位角で等しいから、\( \alpha=\beta\) かどうかということは三角形AB'A' が二等辺三角形かどうかということと同じである。二等辺三角形であれば AB'=AA' であるので、L, L' が平行であることから CB:BB'=CA:AA'=CA:AB' が従う。また逆に、CB:BB'=CA:AB' なら AB'=AA' で \( \alpha=\beta\) となる。この様な状況を、多少記号を変えて三角形の底辺の内分点について示すと図3-11 の様になる。

三角形の外角についても二等分線と外分点との関係を示すことができる。図3-11 の三角形 ABC で CA:CB=AP:BP=AQ:BQ=\(a:b\) として P と Q は AB の \(a:b\) 内分点と外分点とする。\( ∠ACP=∠BCP=\alpha\) である。C と Q を直線で結ぶと、CQ は外角 \(∠BCD\) の二等分線となる。ここに、点 D はAC の延長線上でQD が BC と平行になるようにとる。これを示すためには、まず平行線 BC と QD の錯角の定理により \( ∠BCQ=∠CQD=\beta\) であることに注意する。次に、\( ∠QCD\) は一般には \( \beta\) と等しいかどうかはわからないが、もし等しいとすると、三角形CQD が二等辺三角形となり CD=DQ が成り立つ。そこで、AD:CD=AD:DQ=AC:CB=AQ:BQ=\(a:b\) となって辻褄が合う。また逆に三角形の相似から、AQ:BQ=AD:CD=\(a:b\) 。また、AD:DQ=AC:CQ=\(a:b\) 、そこでAD:CD=AD:DQ よりCD=DQ 。従って、三角形CDQ は二等辺三角形だから \( ∠DCQ=∠DQC=∠BCQ=\beta\) となる。(証明終わり)


図3-11: 三角形の内角の二等分線と内分点


図3-12: 三角形の外角の二等分線と外分点


図3-12 で \( \alpha+\beta=\)直角より、三角形 PCQ は直角三角形である。また後で示す様に、円に内接する三角形で一辺が直径である様な三角形は必ず直角三角形である。そこで、点 C は必ず PQ を直径とする円の上にある。これをアポロニウスの円という。アポロニウスの円は、線分の内分点の考え方を2次元的に拡張したものである。内分比 \(a:b\) で \( a > b\) の時は円は B 点の方にあり、 \( a < b\) の時は円は A 点の方にある。内分比が 1:1 に近づくと、円の半径はますます大きくなる。1:1 の極限で円の半径は \( \pm \infty\) になり、線分 AB の垂直二等分線になる。ここから、外分点は本質的に内分点と同じものであることが分かる。アポロニウスの円はまた、解析幾何学的手法によっても導かれる。(勉強部屋の「代数」の項参照)


図3-13: アポロニウスの円、\(a > b\) の場合


図3-14: アポロニウスの円、\(a < b\) の場合

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円と円周角、円に内接する三角形

円周上に二点を取り、直線で結んだ線分を弦という。弦によって切り取られた円周 (特に、短い方) を円弧という。(図4-1 参照) 二点と円の中心を結んで出来る角を中心角、もう一つの円周上の点と二点を結んで出来る角を円周角という。三点を結んで出来る三角形を、円に内接する三角形という。三角形が 円の中心を内部に含む時三角形は鋭角三角形であり、含まない時鈍角三角形である。前者の場合 (図4-1) 円周角 ∠ACB は中心角 ∠AOB の半分である。これを示すには、頂点 C から中心を通る直線を引き、三角形CAO と三角形CBO がそれぞれ二等辺三角形であることに注意すれば良い。∠ACO=\( \alpha\), ∠BCO=\( \beta\) とすると、三角形の外角の性質よりそれぞれの中心角が \( 2\alpha\) と \( 2\beta\) になることにより、∠AOC=\( 2\alpha+2\beta=2(\alpha+\beta)\)=2∠ACB となる。 このことは、図4-2 や図4-4 の様な鈍角三角形の場合も同様である。 図4-2 では、図4-1 の時の \(\alpha+\beta\) の代わりに二角の差 \(\beta-\alpha\) を考えればよい。また図4-4 の場合は、中心角として180°より大きい ∠AOB を取るだけである。あるいは同じことであるが、∠ACB の外角が180°より小さい方の中心角の半分となっている。これは、 \([180°-2(\alpha+\beta)]/2=180°-(\alpha+\beta) \) であることから当然である。ここで、更に点 C を点 B まで近づけると、図 4-3 の様に辺 AB を延長した直線と点 B における円の接線とのなす角が円周角と等しくなる。この様に、弦 AB を固定して点 C を円周の周りに回転していく時、円周角の意味はその位置によって逐次変わるが、それらは全て等しく、かつ弦の作る小さい方の中心角の半分であることが分かる。


図4-1: 弦と円弧、円周角と中心角、その-1


図4-2: 弦と円弧、円周角と中心角、その-2



図4-3: 接線の円周角


図4-4: 外角の円周角

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ここで示した「円周角は全て等しく、中心角の半分に等しい」という命題の特別の場合として、円の直径を底辺とする内接三角形は全て直角三角形であることが分かる。(図4-5) また逆に、アポロニウスの円のところで既に使った様に、線分 AB を底辺とする直角三角形の頂点を繋いで出来る図形は、AB を直径とする円であることが分かる。

もう一つの例として、図4-4 の外角の円周角を用いて図4-6 の様な円に内接する任意の四角形の対角の和は常に 180° である。つまり、\(\alpha+\gamma=\beta+\delta=180°\) である。


図4-5: 円の直径を直角の対角とする直角三角形


図4-6: 円に内接する四角形の対角の和は 180°

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円周率(π)、ラジアン、面積、体積、空間の次元、直交座標

円の半径 (radius) の二倍を直径 (diameter) と言って \(d=2r\) で表わす。 円周 (circumference) の直径に対する比を円周率と言って π で表わす。そこで、円周 =\(πd=2πr\) である。π を近似的に求めるには、円柱に糸を一周巻き付けそれを真っ直ぐ伸ばして定規でその長さ を測り、それを直径で割れば良い。π は近似的に π=3.141592... である。π は分数や循環小数では表わせない無理数であって、自然対数の底 ( ネピア数) などと同じ様に超越数である。(整数係数の代数方程式の解になり得ない無理数を超越数という。「代数」の項参照)

直線や曲線の長さは、ある単位となる長さ (例えば 1 cm) の何倍となるかという「測定」によって決定することが出来る。同様に面積は、辺の長さが 1 cm 四方の正方形の面積 1 cm × 1 cm = 1 cm2 が単位となっている。体積は 1 cm 四方の立方体の体積 (1 cm)3 = 1 cm3 が単位である。(これを、1 cc とか 1 m\(\ell\) とか言うこともある。) 長方形や三角形、平行四辺形や台形の面積を求める事は容易であるが、円や一般の図形の面積や体積を正確に求める事はある種の極限操作を必ず含むので微分・積分の助けを借り ねばならない。ここでは紀元前250年頃生きたギリシアのアルキメデスにならって、円の周囲の長さや円の面積を図11 の様に正多角形によって近似的に求める方法を紹介する。

(謝辞) 以下の様な漸化式を思いつくには、かなりの忍耐強い試行錯誤とインスピレーションが必要だと思われる。ここでは、次の文献を参考にさせて頂いた。著者の方に感謝いたします。

円周率 π を計算する –アルキメデス,和算,ガウスの方法– 上越教育大学 中川仁


図5-1: 円に内接する正方形と外接する正方形

半径 \(r\) の円に内接する正方形は、対角線が \(2r\) であることとピタゴラスの定理により一片の長さが\(\sqrt{2}r\) の正方形であることがわかる。そこで円の面積は \( (\sqrt{2}r)^2=2r^2\) より大きいはずである。同様に、円の周辺の長さは正方形の周辺の長さ \(4\sqrt{2}r\) よりも大きい。一方、円に外接する正方形の一片の長さは \(2r\) であることにより、円の面積は \(4r^2\) より小さく円の周辺は \(8r\) より小さいことがわかる。従って

\[ 4r^2 > πr^2 > 2r^2 \quad , \quad 8r > 2πr > 4\sqrt{2}r \]

すなわち

\[ 4 > π > 2 \quad , \quad 4 > π > 2\sqrt{2} \quad \tag{7-1} \]

が分かる。更に近似を高めて、円に内接する正多角形と外接する正多角形を考えることにより、π の値をより精度良く求めることが出来る。


(練習問題-5) 半径 1 の円に内接する正 \(n\) 角形の周辺の長さを \(\ell_n\)、 面積を \(s_n\)、外接する正 \(n\) 角形の周辺の長さを \(L_n\)、面積を \(S_n\) とする。(練習問題-4) で求めた二つの特殊な直角三角定規の辺の長さの比を用いて、正三角形、正六角形を考える事により次の結果を導け。

\[ \ell_3=6 \sin 60°=3\sqrt{3} \quad , \quad L_3=6 \tan 60°=6\sqrt{3} \\ s_3=\frac{3\sqrt{3}}{4} \quad , \quad S_3=3\sqrt{3} \quad \hbox{for} \ n=3 \\ \ell_6=12 \sin 30°=6 \quad , \quad L_6=12 \tan 30°=4\sqrt{3} \\ s_6=\frac{3\sqrt{3}}{2} \quad , \quad S_6=2\sqrt{3} \quad \hbox{for} \ n=6 \quad \tag{7-2} \]

ここから、正四角形の場合とあわせて

\[ L_3 > L_4 > L_6 > 2π > \ell_6 > \ell_4 > \ell_3 \\ S_3 > S_4 > S_6 > π > s_6 > s_4 > s_3 \quad \tag{7-3} \]

すなわち<\p>

\[ 3\sqrt{3} > 4 > 2\sqrt{3} > π > 3 > 2\sqrt{2} > \frac{3\sqrt{3}}{2} \\ 3\sqrt{3} > 4 > 2\sqrt{3} > π > \frac{3\sqrt{3}}{2} > 2 > \frac{3\sqrt{3}}{4} \quad \tag{7-4} \]

であることが分かる。


図5-2: 円の正三角形による近似


図5-3: 円の正六角形による近似

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(追補-1) 最初の項から出発して次々に更に高次の項を求めていく式を「漸化式 (recursion relation)」という。(練習問題-5) の発展として、\(n\) の値を \(n=3, 6, 12, 24, 48, 96, ...\)と二倍、二倍と増やしていった時の漸化式を作る事により π の近似値の精度を上げる方法がある。すなわち、(練習問題-5) の \(\ell_n, L_n\) 及び \(s_n, S_n\) に対して次の漸化式が成り立つ。 まず円周に対して

\[\frac{1}{L_n}+\frac{1}{\ell_n}=\frac{2}{L_{2n}} \quad \tag{7-5a} \] \[ \ell_{2n}=\sqrt{L_{2n} \ell_n} \quad \tag{7-5b} \]

次に円の面積に対して

\[ s_{2n}=\sqrt{s_{n} S_{n}} \quad \tag{7-6a} \] \[ \frac{1}{S_n}+\frac{1}{s_{2n}}=\frac{2}{S_{2n}} \quad \tag{7-6b} \]

これらから容易に

\[ L_n > L_{2n} > 2π > \ell_{2n} > \ell_n \quad \tag{7-7a} \] \[ S_n > S_{2n} > π > s_{2n} > s_n \quad \tag{7-7b} \]

であることが分かる。

(7-5)、(7-6) は次節の三角法を用いると比較的簡単に証明する事ができるが、ここでは三角形の相似と第5 節の角の二等分線に対する辺長の比例定理だけを用いる方法を紹介する。


図5-4a: 円周の扇形による \(2n\) 等分、 ∠AOB = \(\theta = 180°/n \)、 OH (OH') は ∠AOB (∠A'OB') の二等分線、AB' との交点が H


図5-4b: 漸化式の証明、線分AB' の中点をQ とすると直角三角形 AQO と直角三角形 ABC が相似になる。

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まず図5-4a で半径 1 の円 (単位円) を \(2n\) 等分して一つの直角三角形 AOB の中心角 ∠AOB を \(\theta\) とする。\( \theta=360°/(2n)=180°/n\) である。単位円に内接する正\(n\) 角形の一辺の長さを \(\ell_n\) とすると、AB=\(\ell_n/(2n)\) となる。同様に外接する正\(n\)角形の長さを\(L_n\) として、A'B'=\(L_n/(2n)\) である。まず三角形 ABO と A'B'O が相似であることにより、B'O:BO=\(L_n:\ell_n\) で B'O=AO=1 だから BO=\(\ell_n/L_n=\cos \theta\) であることが分かる。まず∠A'OB' の二等分線を引いて線分 AB との交点を H、A'B' との交点を H' とする。AH と BH の比や A'H' と B'H' の比は第5節で議論した角の二等分線の定理により、 AO と BO の比 1 : \(\ell_n/L_n\) に等しい。すなわち

AH : BH = A'H' : B'H' = 1 : \(\frac{\ell_n}{L_n}\)

そこで A'B'=\(L_n/2n\) より

\[ B'H'=A'B' × \frac{B'H'}{A'H'+B'H'}=A'B'×\frac{\ell_n}{\ell_n+L_n}=\frac{L_n \ell_n}{\ell_n+L_n} \frac{1}{2n} \]

一方、B'H' は正\(2n\)角形の辺の長さ \(L_{2n}\) を用いて\(L_{2n}/(4n)\) と書けるから

\[ L_{2n}=2\frac{L_n \ell_n}{\ell_n+L_n} \\ \frac{1}{L_n}+\frac{1}{\ell_n}=\frac{2}{L_{2n}} \]

つまり (7-5a) が得られる。

更に、A と B' を結んで三角形 AB'O を考えると \(AB'=\ell_{2n}/(2n)\) であることが分かる。

次に図5-4b で単位円の反対側に点 C を取ると、多くの相似直角三角形が現れる。すぐに分かる様に、直角三角形 B'AB は、直角三角形 ACB や A'CB'、更に直角三角形 B'CA と相似である。そこで、AB':AB=AC:BC=A'C:B'C=B'C:AC より \(AB=\ell_n/(2n), AB'=\ell_{2n}/(2n), A'B'=L_n/(2n), BC=1+\cos \theta =1+\ell_n/L_n \) を使って

\[ \ell_{2n}/(2n) : \ell_n/(2n) = \hbox{AC} : (1+\ell_n/L_n) = \hbox{A'C} : 2 = 2 : \hbox{AC} \]

が得られる。まず、はじめと最後の比を等しいとおいて

\[ \hbox{AC} = 2 \frac{\ell_n}{\ell_{2n}} \tag{7-8} \]

また AC:BC=2:AC より

\[ \hbox{BC} = \frac{{\hbox{AC}}^2}{2}=2\left(\frac{\ell_n}{\ell_{2n}}\right)^2 \tag{7-9} \]

そこで、BO+1=BC は

\[ \frac{\ell_n}{L_n}+1= 2\left(\frac{\ell_n}{\ell_{2n}}\right)^2 \\ \frac{1}{L_n}+\frac{1}{\ell_n}=2 \frac{\ell_n}{\left(\ell_{2n}\right)^2} \]

ここで最後の式の右辺を (7-5a) の右辺 \(2 \frac{1}{L_{2n}}\) と等しいとおくと

\[ \left(\ell_{2n}\right)^2=L_{2n} \ell_n \\ \ell_{2n}=\sqrt{L_{2n} \ell_n} \]

つまり、(7-5b) 式が得られる。

次に面積の漸化式を求めるには、まず図5-4a で三角形 A'B'O の面積の二倍を考えると B'O=1 より \(L_n/(2n)\) で、これが\(S_n/n\) と等しいことより

\[ L_n=2S_n \]

であることが分かる。同様に三角形 ABO の面積の二倍を考えることにより

\[ \frac{\ell_n}{2n} \frac{\ell_n}{L_n}=\frac{s_n}{n} \]

ここから \(L_n=2S_n\) を用いて

\[ \ell_n=2\sqrt{s_n S_n} \]

が得られる。 ここから (7-6a) を得るためには \(\ell_n=2 s_{2n}\) がいるが、これは図5-4b で相似直角三角形 AQO と ABC の面積の比を考えることにより得られる。すなわち

\[ s_{2n}/(4n) : \ell_{n}/(4n)\ \hbox{BC} = 1^2 : \hbox{AC}^2 \]

ここで (7-8)、(7-9) を使う

\[ s_{2n}=\ell_n\ \hbox{BC}/(\hbox{AC})^2 =\ell_n 2 \left(\frac{\ell_n}{\ell_{2n}}\right)^2 \left(\frac{\ell_{2n}}{2\ell_n}\right)^2 =\frac{\ell_n}{2} \]

従って

\[ \ell_n=2 s_{2n} \]

そこで

\[ s_{2n} =\sqrt{s_n S_n} \]

すなわち、(7-6a) が得られる。

最後に (7-6b) は (7-5a) から \(L_n=2 S_n, \ell_n=2 s_{2n}, L_{2n}=2 S_{2n}\) を使って

\[ \frac{1}{2S_n}+\frac{1}{2s_{2n}}=\frac{2}{2S_{2n}} \\ \frac{1}{S_n}+\frac{1}{s_{2n}}=\frac{2}{S_{2n}} \]

と得られる。

(7-7a)、(7-7b) で \(n → \infty\) の極限で実際に 2π や π の値に近づくことを示すには、厳密には \(Ln-\ell_n → 0, S_n-s_n → 0 \quad \hbox{for} \quad n → \infty\) を示す必要があるが、ここでは直感的にこれらが成り立っていることを仮定する。


(練習問題-6) 漸化式 (7-5a, b)、(7-6a, b) で \(n=3\) とおくことにより、(練習問題-5) で与えられている \(\ell_3, L_3, s_3, S_3\) の値から出発して \(\ell_6, L_6, s_6, S_6\) の値が得られることを確かめよ。更に \(n=6, 12, ...\) とおくことにより、次の結果を示せ。

\[ x=2+\sqrt{3}=3.732050807569... として \\ L_{12}=24/x=2×3.215390309172... \\ \ell_{12}=12/\sqrt{x}=2×3.10582854123... \\ L_{24}=48/(x+2 \sqrt{x})=2×3.159659942088... \\ \ell_{24}=24/\sqrt{x(2+\sqrt{x})}=2×3.13262861328... \\ ... \\ s_{12}=3 \\ S_{12}=12/x=3.215390309172... \\ s_{24}=6/\sqrt{x}=3.10582854123... \\ S_{24}=24/(x+2 \sqrt{x})=3.159659942088... \\ ... \]

\(n\) が大きくなると解析的な式は益々複雑になるが、数値としては電卓を用いると簡単に求めることができる。例えば

\[ L_{96}=2×3.1427145996453687... \\ \ell_{96}=2×3.1410319508905102... \]

であるが、一方

\[ 3\frac{1}{7}=\frac{22}{7}=3.142857142857... \\ 3\frac{10}{71}=\frac{223}{71}=3.140845070423... \]

はこれらのかなり良い近似となっている。ウィキペディアによると、 π が \(3\frac{1}{7}\) と \(3\frac{10}{71}\) の間にあることはアルキメデスにより見出されたそうである。

円周と円の面積に同じ定数 π が現れることは、直感的には次の様にして理解できる。十分大きな自然数 \(n\) に対して、半径 \(r\) の円の面積を円の中心から切り取った \(n\) 個の扇形に分け、それらを図5-5 の様に並べる。円周は \(2πr\) だから、得られた図形は近似的に辺の長さが \(r\) と \(πr\) の長方形であり、その面積は \(πr^2\) である。\( n → \infty\) の極限で正確に長方形になると考えられる。https://12sansuu.jp/6nen/6ennomenseki1.html (図5-5) に分かりやすい優れた動画があるので、それを参照して頂きたい。<\p>

これ以外にもアルキメデスにはいろいろな数学的発見がある。例えば半径 \(r\) の球の面積は \(\frac{4π}{3} r^3\)、表面積は \(4πr^2\) であるが、これらが図5-6 の様に球を含む円筒の体積と表面積の3分の2である事はアルキメデスにより発見され、彼の墓標に刻まれたということである。


図5-6: 球とそれを含む円筒の体積と表面積の関係 (Wikipedia より転写)

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「代数」のところで既に学んだように、角度を図る方法として全角を360度とする代わりに円弧の長さが円の半径の何倍かで測る方法があり、それをラジアン (radian: 記号 rad) という。円周は \(2πr\) だから、360°が \(2πr/r=2π\) に対応する。従って、1 rad = 360°/(2π) = 180°/π = 57.2957...° である。(物理的には radian は無単位である。) 180° = π rad、90° = π/2 rad である。極座標は2 次元の直交座標で、\( (x, y) \) の代わりに原点からの距離 (動径部分: \(r\) ) と\(x\)- 軸の正の方向から半時計廻りに (counterclockwise) 測った一般角 \( \theta\) を使って \( (r, \theta) \) で表わしたものである。一般角は普通ラジアンを使って表わされる。


三角法

ここで、多少ユークリッド幾何学の本題からずれるが、三角法の基本について述べることにする。半径 \(r=0.5\) の円を描き、図4-1 にならって円周上の二点 A と B によって決まる円弧と弦、それに対応する円周角 \(\theta\) を定義する。(図6-1 参照) 円周角には、円周上のもう一つの点 C が対応するが、既に見た様に点 C がどこにあっても \(\theta\) は一定であり、それは円弧と弦の中心角 \(2\theta\) の半分である。ここで弦の長さ AB を円周角 \(\theta\) の正弦 (sine) といい、 \(\sin \theta\) と書く。ラジアンで測った角度は円弧の長さを半径を単位として測ったものだから、中心角 \(2\theta\) をラジアンで測れば、円弧 AB の長さは \(2\theta × 0.5=\theta\) となる。そこで、弦 AB と円弧 AB の長さの比は \(\frac{\sin \theta}{\theta}\) である。この比は勿論 1 より小さいが、 \(\theta\) を十分小さくしていくとこの比は限りなく 1 に近づく。これを \[ \lim_{\theta \rightarrow 0} \frac{\sin \theta}{\theta} = 1 \tag{8-1} \]

と書く。厳密な証明はまた後ほど示すが、この式は \(\theta\) が負から 0 に近づく場合にも成り立っている。 繰り返すが、この関係式は角度 \(\theta\) をラジアンで測った場合にだけ正しい。


図6-1: 半径 0.5 の円における円周角と弦の長さの関係


図6-2: 直径 1 の円による sin, cos の定義


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\(\sin \theta\) の意味をより簡単に理解するために、点 C を円周上で動かして線分 CA が円の直径となる様にする。すると、三角形 ABC は斜辺の長さが 1 の直角三角形である。(図6-2 参照) すなわち \(\sin \theta\) は、斜辺の長さが 1 の直角三角形の斜辺以外の辺とその向かい合う角との関係である。この事は、∠CAB とそれに向かい合う弦 CB についても成り立っており、 弦 CB の長さ=\(\sin \)∠CAB である。∠ACB=\(\theta)\) より、直角三角形の余角 ∠CAB=90°-\(\theta\)=π/2-\(\theta\) である。そこで、弦 CB の長さ=\(\sin (π/2-\theta)\) である。(∠ACB でなく) ∠CAB に対する弦 AB の関係を (正弦に対して) 余弦 (cosine) といい、\(\cos (π/2-\theta)\) と書く。つまり、弦 AB の長さ=\(\sin \theta = \cos (π/2-\theta)\) である。最後の式で \(\theta → (π/2-\theta)\) と変えると \(\sin (π/2-\theta)=\cos \theta\) だから、弦 CB の長さ=\(\cos \theta\) である。結局、図6-3 の様に一般の直角三角形 ABC に対して

\[ \sin \theta=\frac{a}{c} \quad , \quad \cos \theta=\frac{b}{c} \tag{8-2} \]

という、教科書によく見られる表式が得られる。

図6-3: 通常の sin, cos の定義

\(\sin\) と \(\cos\) の比を正接 (tangent) または「傾き」といい、\(\tan\) で表わす。「代数」のところで見た様に、二次元直交座標 \((x,y)\) と極座標 \((r, \theta)\) との変換公式は、\(x=\cos \theta, y=\sin \theta, y/x=\tan \theta\) である。ここから「傾き」とは斜辺の傾き、すなわち直線を表わす 1 次関数の傾きに関係していることが分かる。直交座標と極座標の対応により、角度を一般角に拡張したときの sine、cosine 関数の関係 (対称性) が得られる。例えば

\[ \sin (-\theta)=-\sin \theta \quad , \quad \cos (-\theta)=\cos \theta \\ \sin (π-\theta)=\sin \theta \quad , \qquad \cos (π-\theta)=-\cos \theta \]

等が成り立つ。また、直角三角形に対するピタゴラスの定理により \((\cos \theta)^2+(\sin \theta)^2=1\) が成り立つ。角度 \(\theta\) を \((π/2-\theta)\) と変えると \(\sin\) と \(\cos\) が入れ替わり、\(\tan\) はその逆数 \(\frac{1}{\tan}\) に変わる。これを cotangent といい、\(\cot\) で表わす。同様に、\(\sin\)、\(\cos\) の逆数を cosecant、secant といい、\(\csc\)、\(\sec\) で表わす。これらをまとめると

\[ \tan \theta=\frac{\sin\theta}{\cos \theta}=\frac{a}{b} \\ \cot \theta=\frac{1}{\tan \theta} \\ \csc \theta=\frac{1}{\sin \theta} \\ \sec \theta=\frac{1}{\cos \theta} \\ \sin (-\theta)=-\sin \theta \quad , \quad \cos (-\theta)=\cos \theta \\ \tan (-\theta)=-\tan \theta \\ \sin \left(\frac{π}{2}-\theta\right)=\cos \theta \quad , \quad \cos \left(\frac{π}{2}-\theta\right)=\sin \theta \\ \tan \left(\frac{π}{2}-\theta\right)=\frac{1}{\tan \theta}=\cot \theta \\ \sin (π-\theta)=\sin \theta \quad , \qquad \cos (π-\theta)=-\cos \theta \\ \tan (π-\theta)=-\tan \theta \\ \sin (π+\theta)=\sin (-\theta)=-\sin \theta \\ \cos (π+\theta)=-\cos (-\theta)=-\cos \theta \\ \tan (π+\theta)=-\tan (-\theta)=\tan \theta \\ (\cos \theta)^2+(\sin \theta)^2=1 \tag{8-3} \]

ここから便利な公式として

\[ (\cos \theta)^2=\frac{1}{1+(\tan \theta)^2} \tag{8-4} \]

等も導ける。これらは角度 \(\theta\) が直角三角形の内角の鋭角でなくても、正負の (ラジアンで測った) 一般角について成り立つ。(度で測った角度に対しては、π を 180° に読み替えれば良い。)


図6-4: 一般の三角形とその外接円


図6-5: 三角形の正弦定理の証明


次に、三角形の正弦定理、余弦定理について学ぶ。図2-1 の一般の三角形に対して、その面積 \(S\) が

\[ S=\frac{1}{2}ab \sin C=\frac{1}{2}bc \sin A=\frac{1}{2}ca \sin B \tag{8-5} \]

であることは、各頂点から対辺に垂直二等分線を下ろすことによってすぐ分かる。そこで、全体を \(a, b, c\) で割って 2 倍すると

\[ \frac{2S}{abc}=\frac{\sin C}{c}=\frac{\sin A}{a}=\frac{\sin B}{b} \tag{8-6} \]

が得られる。これを、三角形に対する正弦定理という。また別の証明は、三角形の外接円を考えてその半径を \(R\) とする。図2-1 と同様な図 (図6-4 参照) を描いて、円周角 \(A\) を直角三角形の角に移すと \(2R \sin A=a\) であるが、同じ円に対して \(2r \sin B=b, 2r \sin C=c\) も成り立つので

\[ \frac{1}{2R}=\frac{\sin A}{a}=\frac{\sin B}{b}=\frac{\sin C}{c} \tag{8-7} \]

が得られる。(図6-5 参照)


図6-6: 三角形の余弦定理の証明、鋭角三角形


図6-7: 三角形の余弦定理の証明、鈍角三角形


三角形の余弦定理はピタゴラスの定理の一般の三角形への拡張である。 図6-6 で 頂点 A から対辺に垂線を下ろしてその交点を D とし、直角三角形 ABD にピタゴラスの定理を適用する。

\[ c^2=(a-b \cos C)^2+(b \sin C)^2=a^2+b^2-2ab \cos C \]

角 B が鋭角でなく鈍角であっても、同じ式が成り立つ。(図6-7 参照) そこで

\[ c^2=a^2+b^2-2ab \cos C \\ a^2=b^2+c^2-2bc \cos C \\ b^2=c^2+a^2-2ca \cos C \tag{8-8} \]


(練習問題-7) 三角形の面積に関するヘロンの公式: 三角形の正弦定理と余弦定理を用いて、図2-1 (あるいは図6-5) の三角形 ABC の面積 \(S\)が

\[ S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)} \quad \\ \hbox{ここに} \quad s=\frac{a+b+c}{2} \tag{8-9} \]

で与えられることを示せ。また、(8-6) と (8-7) を用いて、三角形に外接する円の半径が

\[ R=\frac{abc}{4S} \tag{8-10} \]

で与えられることを示せ。(8-9) と (8-10) は、外接円の半径を三角形の三つの辺の長さ \(a, b, c\) だけで与えている。


次に、三角関数の加法定理について議論する。これは既に「代数」のところの (10-11) で、簡単な複素変数の指数関数を用いる方法により最も一般的に証明されているが、ここでは上の三角形の正弦、余弦定理を用いて導いてみる。 まず、図6-8 の様に三角形 ABC の頂点 C から底辺 AB に垂線を引き、角度 \(C\) を二つに分けて \(C=\alpha+\beta\) とする。この垂線が底辺と交わる点を Q とすると、三角形 ABC の面積を二つの直角三角形 ACQ と BCQ の和として CQ の長さを \(h\) として

\[ (1/2)ab\sin (\alpha+\beta)=(1/2)ah\sin \alpha + (1/2)bh\sin \beta \]

そこで

\[ \sin (\alpha+\beta)=\frac{h}{b}\sin \alpha + \frac{h}{a}\sin \beta \]

ここで辺の比は、それぞれ \(\cos \beta\) と \(\cos \alpha\) より

\[ \sin (\alpha+\beta)=\sin \alpha \cos \beta + \cos \alpha \sin \beta \tag{8-11} \]

が得られる。


図6-8: sine 型加法定理の証明


図6-9: cosine 型加法定理の証明


次に cosine-type の加法定理を求めるために、図6-9 の様に単位円上の二点 P\((\cos \beta, \sin \beta)\) と Q\((\cos \alpha, \sin \alpha)\) を取ると、その間の距離 \(c\) の二乗はピタゴラスの定理より

\[ c^2=(\cos \beta-\cos \alpha)^2+(\sin \beta-\sin \alpha)^2 \\ =2-2(\cos \beta \cos \alpha+\sin \beta \sin \alpha) \]

であることを使う。一方、三角形 PQO に余弦定理を適用すると

\[ c^2=2-2\cos (\beta-\alpha) \]

より

\[ \cos (\beta-\alpha)=\cos \beta \cos \alpha + \sin \beta \sin \alpha \tag{8-12} \]

が得られる。ここで、\(\alpha → -\alpha\) と変えて \(\cos (-\theta)=\cos \theta, \sin (-\theta)=\sin \theta\) を使うと

\[ \cos (\alpha+\beta)=\cos \alpha \cos \beta - \sin \alpha \sin \beta \tag{8-13} \]

が得られる。


(練習問題-8) \( \sin (\alpha+\beta) \pm \sin (\alpha-\beta)\) や \( \cos (\alpha+\beta) \pm \cos (\alpha-\beta)\) を考えることにより、次の公式を証明せよ。

\[ \sin A+\sin B=2 \sin \frac{A+B}{2} \cos \frac{A-B}{2} \\ \sin A-\sin B=2 \cos \frac{A+B}{2} \sin \frac{A-B}{2} \\ \cos A+\cos B=2 \cos \frac{A+B}{2} \cos \frac{A-B}{2} \\ \cos A-\cos B=-2 \sin \frac{A+B}{2} \sin \frac{A-B}{2} \tag{8-14} \]

倍角公式は、加法定理 (8-11)、(8-13) で \(\alpha=\beta)\) とすることによって得られる。すなわち

\[ \sin 2\theta=2 \sin \theta \cos \theta \\ \cos 2\theta=(\cos \theta)^2-(\sin \theta)^2 \\ =2(\cos \theta)^2-1=1-2(\sin \theta)^2 \\ \tan 2\theta=\frac{2\tan \theta}{1-(\tan \theta)^2} \tag{8-15} \]

が成り立つ。また、\(\theta → \theta/2\) とすると半角公式が得られる。

\[ 2\sin \frac{\theta}{2} \cos \frac{\theta}{2}=\sin \theta \\ \left( \sin \frac{\theta}{2}\right)^2=\frac{1-\cos \theta}{2} \\ \left( \cos \frac{\theta}{2}\right)^2=\frac{1+\cos \theta}{2} \tag{8-16} \]


(練習問題-9) (8-15)、(8-16) を用いて、次の\(\tan\) の半角公式を導け。(ヒント: 右辺から左辺を導く。)

\[ \frac{1}{\tan \frac{\theta}{2}}=\frac{1}{\tan \theta}+\frac{1}{\sin \theta} \tag{8-17} \]


(練習問題-10) 三角法を使うと、(追補-1) の漸化式は比較的簡単に求められる。まず、(練習問題-5) の \(\ell_n, L_n\) 及び \(s_n, S_n\) に対して図5-4a から、 \(\theta=π/n\) として

\[ \ell_n=2n \sin \theta \quad , \ quad L_n=2n \tan \theta \\ s_n=n \sin \theta \cos \theta=\frac{n}{2} \sin 2\theta \quad , \quad S_n=n \tan \theta \]

であることが分かる。更に \(n → 2n, \theta → \theta/2\) に変えて

\[ \ell_{2n}=4n \sin \frac{\theta}{2} \quad , \quad L_{2n}=4n \tan \frac{\theta}{2} \\ s_{2n}=n \sin \theta \quad , \quad S_{2n}=2n \tan \frac{\theta}{2} \]

より

\[ L_n=2S_n \quad , \quad \ell_n=2 s_{2n} \\ \ell_n=2 s_n \frac{1}{\cos \theta}=2 s_n \frac{L_n}{\ell_n} \]

であることはすぐ分かる。そこで、\(\tan\) の半角公式 (8-17) 等を用いると (7-5)、(7-6) の漸化式が容易に得られる。


三角形の内接円、外接円、重心、垂心

最後に、三角形の内接円、外接円、重心等について簡単に述べる。 図7-1 の様に任意の三角形に内接する円は、各頂点の角の二等分線の交わったところ (内心という) に中心をもつ三つの辺に接する円である。三つの二等分線が一点で交わることは、まず頂点 A、B の二つの二等分線の交わる点 O を求め、そこから第三の角 C に直線を引くことですぐ分かる。すなわち、図7-1 で O から 辺 AB、BC、CA に垂線を下ろし、交点を C'、A'、B' とすると、二つの直角三角形 COA' と COB' は OA'=OB' より合同だから ∠OCA'=∠OCB' で、これらは角 C の二等分角であることが分かる。三角形の面積を \(S\) は三つの辺の長さ \(a, b, c\) を用いて (8-9) のヘロンの公式で求められるので、内接円の半径 \(r\) を用いてこれを \(S=(1/2)(a+b+c)r\) と書くことにより \(r\) は \(r=\frac{2S}{a+b+c}\) と求められる。

図7-1: 三角形の内接円

内接円と類似の性質をもつ円として三角形の外角の二等分線によって作られる傍接円がある。図7-2 の様に三角形の辺を伸ばして角B、C の二等分線の交わる点をO' とする。O' から B, C の先に伸ばした直線と底辺 BC に垂線を下ろし交点を C"、B"、A" とする。直角三角形 O'C"B と O'A"B 及び O'B"C と O'A"C はいずれも合同だから、O'C"=O'A"=O'B"=\(r_A\) は全て等しい。これを傍接円といい、O' を傍心という。AO' は角A の二等分線であるから、当然内心を通る。傍心は角 A の内角とB、C の外角が一点に交わる点である。傍接円の半径は、三角形 ABO' と ACO' の面積の和が三角形 ABC と BCO' の和になっていることにより、 \((1/2)r_A(b+c-a)=S\) だから \(r_A=\frac{2S}{b+c-a}\) となる。ここに \(S\) は三角形の面積で (8-9) で与えられる。すなわち、内接円の時の \((a+b+c)\) を \((b+c-a)\) に変えるだけである。また、一つの三角形に対して三つの傍接円が存在する。

図7-2: 三角形の傍接円

内心、傍心から辺や直線に下ろした垂線から三角形の頂点までの距離は、三辺の長さ \(a, b, c\) (と内接円の半径 \(r=(a+b+c)/2\)) を用いて簡単に表すことができる。 例えば、図7-1 で隣り合う直角三角形の合同を繰り返し使って

AC' = \(c-\)BC' = \(c-\)BA' = \(c-\)(\(a-\)CA') = \(c-a+\)CA' = \(c-a+\)CB'

= \(c-a+\)AB' = \(c-a+b+\)AC'

より、AC' を左辺に移して 2 で割ると AC'=\((b+c-a)/2=s-a\) 同様にして、次の結果が得られる。

\[ \hbox{AB'}=\hbox{AC'}=\frac{b+c-a}{2}=s-a \\ \hbox{BC'}=\hbox{BA'}=\frac{c+a-b}{2}=s-b \\ \hbox{CA'}=\hbox{CB'}=\frac{a+b-c}{2}=s-c \]

また図7-2 の傍接円の場合も

AC" = AB+BC" = \(c+\)BA" = \(c+a-\)CA" = \(c+a-\)CB"

= \(c+a-\)(AB"\(-b\)) = \(c+a+b-\)AC"

より、AB" = AC" = \((a+b+c)/2=s\) が得られるから、BC" = BA" = AC"\(-c = s-c\) かつ CB" = CA" = AB"\(-b\) = \(s-b\) 結局

\[\hbox{CB"}=\hbox{CA"}=\frac{c+a-b}{2}=s-b \\ \hbox{BC"}=\hbox{BA"}=\frac{a+b-c}{2}=s-c \]

他の二つの傍接円に対しては

\[ \hbox{AC"}=\hbox{AB"}=\frac{a+b-c}{2}=s-c \\ \hbox{CA"}=\hbox{CB"}=\frac{b+c-a}{2}=s-a \]

及び

\[ \hbox{BA"}=\hbox{BC"}=\frac{b+c-a}{2}=s-a \\ \hbox{AB"}=\hbox{AC"}=\frac{c+a-b}{2}=s-b \]

が成り立つ。

三角形の外接円は各辺の垂直二等分線の交点 (これを外心という) を中心とする半径 \(R\) の円である。(図7-3 参照) この場合も二つの垂直二等分線の交点から第三の辺に下ろした垂線がその辺を二等分することは、内接円の場合と同様にして示すことができる。外接円の半径 \(R\) は三角形の面積 \(S\) を用いて、(8-10) の様に表わされる。外接円については、円周角等既に多くの性質を学んだのでこれ以上議論しない。

図7-3: 三角形の外接円

もう一つの三角形に結びついた重要な点は三角形の重心である。重心は質量中心といわれる物理学の基本概念である。密度が一定で厚さ一様な三角板を 三つの頂点からぶら下げると頂点から下ろした垂線は一点で交わる。それが重心である。重心の位置を見つけるためには、三角板を上の頂点から底辺に 平行な細い長方形の板の集まりで近似して考えると良い。(図7-4 参照) 細い長方形の板の重心はそれぞれその真ん中にあるから、図7-5 の様に垂線は頂点から対辺の二等分点を結んだ線分である。これを対辺の二等分線と呼ぶことにすると、重心は必ずこの線分の上にある。重心はこの線分の頂点と底辺の点の間を を 2:1 に内部した点であることが分かる。これを示すには、図7-5 で二つの二等分線の交点を G としてA' と B' を直線でつなぎ AB と A'B' が平行であることに注意する。平行線の錯角が等しいことにより、三角形 ABG と B'A'G が相似であることから、AB:B'A'=2:1=AG:A'G=BG:B'G である。次に、CG を通る直線を延長して AB との交点を C' とすると、C' が AB の中点であることが示せる。

それを示すためには、まず上の式で AG:A'G=BG:B'G=2:1 の時、A' と B' を結んで出来る線分 A'B' は錯角の性質から AB に平行で長さの比が 2:1 であることに注意する。三角形の高さを比較することにより、三角形 BCG と CAG の面積はともに三角形 ABC の面積の3分の1である。そこで三角形 ABG の面積は、全体からこれらの2つの三角形の面積を引いたものであるので、再び三角形 ABC の面積の3分の1である。ここから、CG:C'G=2:1 であることが分かる。そこで、線分 A'C' を作るとこれは AC に平行で AC'=BC'、すなわち線分 CC' は C の底辺、線分ABの二等分線であることが分かる。


図7-4: 重心の求め方


図7-5: 三角形の重心


最後に、斜辺が共通な直角三角形の直角の頂点をつないで出来る曲線が斜辺を直径とする円となること、及び「円周角は全て等しい」ということを利用する例として、垂心について議論する。図7-6 の様に、三角形 ABC の各頂点から対辺に垂線を下ろすとそれらは 1 点で交わる。この点 H を垂心という。AA' と BB' が垂線であるとして、その交点 H と C を結んで延長し辺 AB との交点を C' とする時、∠CC'B が直角である事は次のようにして分かる。 まず、直角三角形 BA'A の角 ∠A'AB を \(\theta\) とする。2つの直角三角形 AA'B と AB'B は、AB を直径とする外接円の上にあるから、線分 A'B の円周角 ∠BB'A' と ∠BAA' は等しく共に \(\theta\) である。更に、四角形 CA'HB' はまた別の外接円上にあるから、∠A'CH=∠A'B'H=\(\theta\) である。そこで、三角形 BC'C と直角三角形 BA'A を比較して、∠CC'B が直角であることが分かる。

図7-6: 三角形の垂心

以上、内心、傍心、外心、重心、垂心について説明してきたが、これらをまとめて五心という。三角形を特徴づける点は五心以外にも無限とあって、そ れらはより複雑に多くの円と関係しあっている。これらの幾何学的模様は、例えばペルシャの絨毯や着物の紋様等に広く用いられている。図7-7 から 7-10 の様に多くの円とその変形図形を組み合わせた紋様もある。


図7-7: 三つの円を組み合わせた幾何学模様


図7-8: Microsoft Edge のロゴマーク

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図7-9: 韓国の国旗


図7-10: 戦国武将・黒田官兵衛の軍旗


(参考文献)

1. 「零の発見: 数学の生い立ち」吉田洋一著、岩波新書

2. 「One, two, three ... Infinity: Facts and Speculations of Science」George Gamow, Dover Books on Mathematics

3. 「数学入門(上、下)」遠山啓著、岩波新書

4. 「解析概論」高木貞治著、岩波書店


(幾何分野の項、終了)

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