はじめに

一般の人にはあまり馴染みがない事と思うが、基礎物理学の分野では1970年代 の終わりから80年代の初めにかけて物質とその物理法則に関して革命的な進展があった。 その時代を研究を始めた直後に経験した者として、 その時の雰囲気をできるだけ正確に記録しておく事は我々の任務だと考える。 私は中高生の頃、名古屋大学の教授であった豊田先生の書かれた「現代の物質観」と 言う岩波の本を愛読していたが、そこで読んだり高校高等学校で学んだりした物質観は もはや完全に古いものになってしまった。そこでは原子核を作っている陽子や 中性子は素粒子であってそれよりも小さいものに分け られないものとされていたが、1960年代に現れたゲルマンのクォークモデルは 二十年後には現実のものとして認識されるようになった。 現在はクォークとレプトンが世界の構成要素であり、非可換ゲージ理論が 今のところ知られている四つの相互作用を支配する原理であるという、いわゆる標準 模型が広く受け入れられている。湯川秀樹によって開かれた核力をはじめとする 強い相互作用の研究は、QCD (量子色力学) という理論の枠内で クォークとグルオンのレベルから構成的に導かれようとしている。 このホームページのQMPACK Homepage という名前の由来は、 我々の開発した Quark Model Package と呼んで いる computer program の名前に基づいている。

ここに公開する資料は、私がボランティアとして行う予定であった、 或る高等学校の2年、3年生を対象として準備した半期 6-7 回分の講義内容を基に、 それを口述筆記して出来たものである。 まだ量子力学の途中の半分程までしか出来ていないが、今後徐々に更新していく予定である。 文章にすると数式がどうしても多くなって難しくなりすぎるが、 出来るだけ平易にするつもりである。全部で11 回分のメモとなる予定である。 また、参考文献やウェブ上のリンクはまだほとんど付いていないが、 徐々に完備していくつもりである。

この講義の目的は下のシラバスにもあるように、 近代物理学の流れを人類の文明の発展の歴史の中で位置づけ、 現在我々が到達した物質の構成要素とそれらを支配している法則を学ぶことである。 また、我々が日常生活の中で何気なく使っている色々な概念をさらに深く知ることによって、 今日テレビやいろいろなメディアに現われる現代科学技術に関係したニュースを よりよく理解できるようになることを目指している。その意味で、これは 単なる物理の歴史ではなく、時間とは何か? 空間とは何か? という 根源的問いかけに対する現代物理学の最前線の理解をはじめとして、 暦の成り立ちや、宇宙の大きな構造から微視の世界の現象を統一して理解することを目指す。 高校生の補習授業の形態をとっているが、一般の皆様にも読んで頂けたらと願っている。 講義の到着点は、私が現役時代に工学部大学生の初年度に受けもっていた「基礎物理学A(力学)」 (古いホームページの講義の項を参照) の一回目に予定している Introduction「現代の物質観」 の内容である。


物理 special class  シラバス 藤原義和

TITLE: Modern View for the Constituents of Matter 現代の物質観 (物理学の歴史)

形式: 半期6-7回程度の講義

講義の目的: 高度に発展した現代の科学・技術は、自然に対する 2000年を超す人類の飽くなき 探求心とより良く便利な生活への強い願望のたまものである。 現代の物質観に至る物理学の発展の歴史を振り返ることにより、 現代社会において必要な数学や物理・化学といった基礎学力を身につけること の重要性を理解する。

講義内容:
1.イントロダクション
2.ギリシア哲学
 アルキメデスの原理、ターレス、プラトン、ソクラテス
 アリストテレスの世界観
3.ルネサンスと宗教革命
  ガリレオガリレイ、ニュートン、ライプニッツ、ファラデイ
4.産業革命時代の物理学
熱力学、物質の3態、元素の発見、・・・
5.19世紀の物理学
 百科全書派、ラボワジェ、アボガドロ、メンデレーエフ
 原子・分子とは何か?
6.微視の世界の解明
 光の不思議、量子力学の形成、アインシュタインの相対性理論
 原子核・素粒子の世界
7.現代の物質観

評価の方法: 講義の最後に感想文を書いてもらいます。


講義計画

1st Lecture

1.Self-Introduction 自己紹介
  Quality of Life
ブータン国王の訪日(幸福度)について
  本当に幸福になったか?
  i-Remocon について
2.現代の科学技術
  科学とは
・natural science
physics math chemistry biology medical science etc.
・spatial science
economics law politics international politics sociology etc.
・humanity
literature religion linguistics language history etc.
Methodology
  帰納 reduction 演繹 分析 
物理の方法論
   地球物理学 (earth science) 天体物理学 etc.
西洋文明の根底をなす人間の基本的なcivilizationに影響を及ぼしている
civilization
現代の科学技術に結びつくようなcivilizationは、主にギリシア哲学に代表される ようなヘレニズム文化とかその後のローマ帝国の世界支配に結びついたキリスト 教文化によって支配されているが、その2つが全てではない。ギリシア文明以前 に多くの文明があったし、また数学におけるゼロの発見のようなインド、アラビック 文化も無視できない。
※この講義では、時間の都合上、上記の2つに話をしぼるが、そこは注意しておく必要 がある。
3.講義の目的
この講義では、2.で述べた2つの基本的な思考の流れを中心に、主だった人間の自然認識の発展の歴史を述べる。 科学技術の発展は、人間の悪なき知的探究心と、よりよい生活をしたいという願望の賜物である。
人間の基本的な疑問
      我々はどこから来てどこへいこうとしているのか
      世界はどうして、、、、、 
      人類はどうやって生まれたのか
      宇宙は、、、 
      地球は、、、
      太陽は、、、
      生物は、、、
      人類はどのように進化してきたか
      現代文明はどのように築かれたか
を考えていきたい。 それによって、それらを理解するために基礎となる物理、数学、化学、生物などの中等教育課程をなぜ勉強していかねばならないか分かって頂けたら幸いだ。
4.年表
  B.C. A.D.
ヘレニズム文化とキリスト教文化が現代の科学技術の根底に流れる2つの思想の流れである。
  エジプト
  ギリシア
  中世 アリストテレスの考え方
  ルネッサンス ガリレオ・ガリレイ コペルニクス ニュートン  ライプニッツ(微分積分) ファラデー(電磁気学)
  宗教革命
  産業革命 イギリス ...
  市民革命 イギリス フランス 百科全書派 ディドロ ダランベール ラボアジェ アボガドロ   フーリエ ラグランジェ ガウス
  微視の世界の法則 元素 原子 分子  メンデレーエフ
  現代の歴史 第1次、第2次対戦、冷戦時代
        共産主義の崩壊
        原子核・素粒子 → 現代の物質観
  1900年代 原子の構造を明らかにするため量子力学
シュレーディンガー ハイゼンベルグ アインシュタイン

2nd Lecture

1.古代ギリシアの物質観
  ターレス 水、土、空気、火 → すべての根源
       哲学者/物理学者/数学者
  ピタゴラス 数学者
2.アルキメデスの原理
  王冠の比重
  浮力・密度
  水の密度 1g=1cc(だいたい)4℃位いで密度が一番高い
  体積と質量の比=密度 → 物質ごとに違う
  浮力の話と密度の話を区別する
  浮力に関しては、力の釣り合いの話が必要 → ガリレオ・ガリレイの慣性の法則
3.それ以後の科学技術の発展
  中世の世界観 アリストテレスの哲学
         間違いも多い
         エジプトのアレクサンドリア
         プトレマイオス・アリストテレスの世界観/物質観が中世のキリスト教会を支配していた。
example 1. 天動説(コペルニクスが現れるまで支配的) 地球を中心とした星々の運動
            惑星/恒星の話 planet/fixed star
example 2. 慣性の法則 ガリレオ・ガリレイがその著書『天文学対話』の中で詳しく明らかにした。

3rd Lecture 力学法則の基本原理

1.ガリレオ・ガリレイ(天文学対話)
  力学の基本法則
  それでも地球は動く
  ↓
  ティコブラーエ コペルニクス
  地動説
2.ニュートン(プリニキピア)
  自然原理の数学的序説
  その本において、ガリレオ/コペルニクスがうすうす気づいていたものを3つの基本原理にまとめた。
    ①慣性の法則
    ②運動の法則
    ③作用反作用の法則
  現代的な言葉では、①は慣性系の存在を主張
           ②は f=ma
           ③は運動量の保存則
3.近代数学 微分積分学の発見
  ニュートン ライプニッツ
  ニュートンは、微分積分を水率、水量として導入
  ライプニッツは、現代の数学、微分記号積分記号を発見
  デカルトの本の名前『哲学的、、、』
4.電磁気学の発展
ファラデー(「ロウソクの科」の著者)
  王立教会におけるクリスマス講演を行って、科学の普及に努めた。古典場の理論、電磁気学の礎を築いた。

4th Lecture 産業革命時代の物理学...熱力学を中心に

1.蒸気機関の発明 J. Watt
  エネルギーとは何か
  熱とは何か
  温度とは何か
  熱効率が重要...力学的エネルギー+熱エネルギー=全エネルギー(エネルギーの保存則)
2.水の三体
  氷
  水
  蒸気
  密度=質量/体積 が大きく違う
  すべての物質は、温度と圧力を調整することにより固体・液体・気体となる。
3.理想気体の状態方程式
  PV=nRT
P...圧力=力/面積(単位面積あたりの力)
  V...体積
  n...モル数
  R...気体定数  k=R/N=ボルツマン定数 Nはアボガドロ数(1モルあたりの原子分子の数)
  T...絶対温度(セルシウムで測った温度 単位℃+273°単位°K (Kelvin)
    温度には下限がある。(絶対0°K=−273℃)
4.カルノーサイクル
  圧力 膨張・加熱・冷却を通じて気体の状態変化を記述する
5.理想気体の分子運動論

5th Lecture 19世紀の物理学

1.百科全書派 ディドロダランベールの台頭
  基礎数学の発展 フーリエ ラプラス パスカル その他多数
2.質量保存の法則
  ボイル プリーストリー 錬金術は本当に可能か?
3.元素の発見
  モルとは?
  原子番号 
  質量数
  元素...周期率表(メンデレーエフ)
  ボイル   ラボアジェ   プリーストリー
4.真空とは何か?
  エーテル
  遠隔相互作用   近接相互作用
  ファラデーから始まる場の理論の発展
  マックスウェルによる電磁場の方程式
  電波の発見
  光の速度の問題
  マイケルソン・モーリーの実験
  光の速度は、どんな座標系から見ても一定

6th Lecture 微視の世界の物理学(20世紀の物理学)

1. 相対性理論 アインシュタイン ・・・
2. 量子力学 ニールス・ボア ハイゼンべルク シュレーディンガー ・・・
3. 微視の世界の解明 ラザフォード チャッドウィック・・・

7th Lecture 現代の物質観 

Quark, lepton からなる相対性理論と量子力学の世界
相対論的量子場理論(ゲージ場理論)に基づく相互作用の統一的理論
1980年頃確立したこれらの理論は「標準模型」と言われ、現代の物質観をなしている。

追記 未来に向けて科学者の社会的責任

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