物理数学講義

平成 15 年度前期の物理数学は、初等的な複素函数の勉強を済ませた人を 対象として、物理でよく使われる初等函数や特殊函数の各種展開定理、 すなわち無限級数展開や無限乗積展開、漸近展開、また、有理型函数や調和函数、 解析接続の応用などについて講義いたします。

皆さんは、岩波の「数学公式集」(特に、II や III) を見て、sin, cos 等の非常に簡単な初等函数が様々な、一見摩訶不思議な関係式を満たす事に驚いた 事はありませんか?
これらの多くは実は初等函数の解析性を用いて 証明されるものなのです。例えば、指数函数と三角関数が実は同じものだと いう事は、実変数の函数から複素函数へ拡張してはじめて自然に理解され ます。指数函数の逆函数としての対数函数は、枝 (branch) という概念の 導入を通じて、実に様々な応用を可能にします。 複素数のべき乗は対数函数によって定義されます。 (za=ea log z) 物理学では初等函数以外に、ルジャンドル函数などの 直交多項式や、一般に積分表示式であらわされるΓ-函数、更には 無限級数で表されるベッセル函数等の、 いわゆる特殊函数が数多く出てきますが、 これらにおいても解析性の考察は強力な武器です。 量子力学の基礎方程式であるシュレディンガー方程式の解は、まさに こうした解析函数からなっているのです。

この講義では、物理でよく使われるガンマ函数 (Γ-函数) をふんだんに利用して解析性の様々な側面を理解したいと思います。Γ-函数を「完全に」理解したら、 この講義の目的はほとんど果たされたと言って言い過ぎではありません。 最終目標は漸近展開です。連分数展開とか漸近展開とかは、 数値計算法上の応用でも重要です。

4 月 9 日 (水) (8:45 - 10:15) の初回は、スクリーンを利用して複素函数の 基礎知識を復習します。ここに開示されている、講義ノート(前編)を使います。 これからの、講義の予定についてもお話しますので是非出席してください。 2 回目から、早速、有理型函数についての議論に入っていきます。 今回講義する分の講義ノートは(後編)ですが、このとおり講義するとは 限りません。あくまでも予定と考えてください。 はじめは、少し難しいですが、そのうち、また簡単になりますから めげずについてきてください。 何か面白い性質を見つけたり、また、質問や悩んでいる事がありましたら、 気楽に私の研究室 (物理学教室 531 号室) に来てください。 一緒に考えましょう。 (2003.4.8)


平成 15 年度講義予定
第 1 講 4 月 9 日 複素函数の基礎知識の復習 (その 1)
第 2 講 4 月 16 日 複素函数の基礎知識の復習 (その 2)
第 3 講 4 月 23 日 無限乗積、「有理型函数=整函数/整函数」の証明
第 4 講 4 月 30 日 無限乗積展開の例、Weierstrass の公式
第 5 講 5 月 7 日 解析接続の原理、積分と微分の交換定理
5 月 14 日 臨時休講
第 6 講 5 月 21 日 Γ-函数
第 7 講 5 月 28 日 外微分形式について
第 8 講 6 月 4 日 調和函数
6 月 11 日 休講
6 月 18 日 創立記念日につき休講
第 9 講 6 月 25 日 留数定理、部分分数展開
第 10 講 7 月 2 日 Bernoulli 数、Γ-函数
第 11 講 7 月 9 日 Stirling 級数、無限級数展開
7 月 16 日 全学共通科目前期試験期間中につき休み
定期試験 7 月 23 日(水) 8:45 - 10:15、 於理学部 6 号館 301 号室 (終了)

○講義タイトル:物理数学 (前期)
○講義番号:3221
○担当教官:藤原義和
○連絡先 :物理学教室 531 号室、内線 3875 (075-753-3875)
e-mail: fujiwara@ruby.scphys.kyoto-u.ac.jp
○対象回生:主として 3 回生
○講義時間:前期/水曜日/第 1 時限
○講義室 :理学部 6 号館 301 号室
○講義の概要:「複素函数論とその応用」のうち、 今年度は下記目次の 2-5 有理型函数 から 3-4 漸近展開までを講義する。すなわち、 Γ-函数等、物理でよく使われる特殊函数や初等函数を素材として、有理型函数、 無限乗積展開、解析接続、部分分数展開、無限級数展開、漸近展開について 概説する。また、調和函数や留数定理による定積分の計算についても学ぶ。
<目次>
1. 解析学の基礎
1-1. 複素数
1-2. 収束、ベキ級数、連続関数、一様収束
 1-2-1. 数列の収束
 1-2-2. 級数の収束
 1-2-3. ベキ級数
 1-2-4. 連続関数
 1-2-5. 一様収束
1-3. 指数函数、対数函数
1-4. 領域、単連結、ホモトープ
2. 解析函数
2-1. 線積分
 2-1-1. 微分形式
 2-1-2. 微分形式の原始函数
 2-1-3. 閉じた微分形式
2-2. 解析函数の基本諸定理
 2-2-1. Cauchy-Riemann の関係
 2-2-2. 原始函数の存在、Cauchy の定理
 2-2-3. Cauchy の積分公式、Taylor 展開、Morera の定理
 2-2-4. 零点の考察、解析的延長
2-3. 解析函数の特異点と留数
 2-3-1. Laurent 展開
 2-3-2. 無限遠点における解析函数
2-4. 整函数、形式的ベキ級数論との関係
2-5. 有理型函数
 2-5-1. 定義と性質
 2-5-2. 無限乗積
 2-5-3. 「有理型函数=整函数/整函数」の証明
 2-5-4. いくつかの例
2-6. 解析接続
 2-6-1. 解析接続の原理
 2-6-2. 一様収束する無限積分の諸定理
 2-6-3. 無限積分によって表された解析函数
 2-6-4. Γ-函数
2-7. 調和函数
 2-7-1. 正則 1 形式と調和 1 形式
 2-7-2. 調和関数
 2-7-3. 平均値の性質
 2-7-4. 与えられた実部をもつ正則函数
 2-7-5. 調和函数展開
 2-7-6. 最大値の原理、最小値の原理
 2-7-7. Poisson の公式
 2-7-8. 円盤に対する Dirichlet 問題
 2-7-9. 平均値の性質による調和函数の特徴づけ
 2-7-10. Schwartz の鏡像原理
3. 解析函数の応用
3-1. 留数定理による定積分の計算
 3-1-1. 留数定理
 3-1-2. 類型 1
 3-1-3. 類型 2
 3-1-4. Jordan の補題
 3-1-5. 主値積分
 3-1-6. Mellin 変換型の定積分
 3-1-7. 類型 5
 3-1-8. ある定積分
3-2. 部分分数展開
 3-2-1. 部分分数展開
 3-2-2. 無限乗積展開との関係
 3-2-3. Mittag-Leffler の定理
 3-2-4. 部分分数展開の一般化
3-3. 無限級数展開
 3-3-1. Darboux の公式
 3-3-2. Bernoulli 数
 3-3-3. Bernoulli 数の定積分による表現
 3-3-4. Bernoulli 数による和公式
 3-3-5. Γ-函数への応用 (Binet の第 2 公式)
3-4. 漸近展開
 3-4-1. 定義と性質
 3-4-2. Stirling 級数
○連絡事項:講義の終りに筆記試験を実施して、その結果により合否を決定する。 (ノート、参考書持ち込み不可)
○関連ある講義、演習:数学教室提供の函数論(後期講義) を既に 履修していることが望ましいが必須ではない。 また、物理数学演習を同時に履修すること。(出来るだけ重複は避けるつもりです。)
○修得しておくことが望ましい基礎知識、講義: 上記目次の前半部分、 すなわち、Laurent 展開に至るまでの複素函数の初等的知識は仮定するので、 各自自習しておくこと。(下に前半部分の講義ノート (前編) がある。)
○参考図書:
1. 高木貞治 : 解析概論 (岩波)
2. 犬井鉄郎 : 特殊函数 (岩波全書)
3. H. カルタン : 複素函数論 (岩波)
4. L. V. アールフォルス : 複素解析 (現代数学社)
5. W. T. Whittaker and G. N. Watson : A Course of Modern Analysis (Cambridge University Press)
シラバス (上と同じ)    [pdf] [ps]
講義ノート (前編) .・・・ シラバスの I, II-2.4 まで [pdf] [ps]
講義ノート (後編 1) ・・・シラバスの II-2.5-7 有理型函数、解析接続、調和函数 [pdf] [ps]
講義ノート (後編 2) ・・・シラバスの III 解析函数の応用 [pdf] [ps]
平成 11 年度問題 [pdf] [ps]
平成 11 年度問題に関するコメント [pdf] [ps]
平成 12 年度問題 [pdf] [ps]
平成 12 年度問題の略解とコメント [pdf] [ps]
平成 13 年度問題 [pdf] [ps]
平成 13 年度問題の略解とコメント      [pdf] [ps]
平成 14 年度問題 [pdf] [ps]
平成 14 年度問題の略解とコメント      [pdf] [ps]
平成 15 年度問題 [pdf] [ps]
平成 15 年度問題の略解とコメント      [pdf] [ps]